改訂新版 世界大百科事典 「先祖書」の意味・わかりやすい解説
先祖書 (せんぞがき)
由緒書ともいう。江戸時代,武士が直系の先祖の氏名・経歴などを書き連ねた文書。代々の軍功書,奉公書を並べた形式をとることが多い。また,伝来の古文書を記載したものもある。系図が次・三男,女などを記載するのに対し,先祖書は直系のみを記載し,プライベートな記述がないことが多い。仕官のときや,家臣団の家系調査などのとき提出させた。近世武家社会では,個人の能力より由緒・家柄が尊重されたが,先祖書の内容は,これを象徴するものである。父祖の軍功,とりわけ徳川氏の合戦への参陣などは誇張され,家系調査の際提出されたものには,現在の主家に仕えて以降の記述のみのものも多く,主家と自分の家との結びつきを強調する傾向がある。諸藩では,しばしば先祖書を提出させ,つづっているが,中には数代にわたって書き継がれたものも残っている。系図と並ぶ家系調査の好史料であり,武家社会の性格をよくうかがわせる内容である。
執筆者:根岸 茂夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報