日本大百科全書(ニッポニカ) 「全体意思」の意味・わかりやすい解説
全体意思
ぜんたいいし
volonté de tous フランス語
ルソーが一般意思volonté généraleと区別して用いた用語。全体意思は私的利益を追求する特殊意思の総和にほかならず、この全体意思が、公共の利益を追求する一般意思になるのは、それが特殊意思の総和とは別のものになるときである。このことは、各個人が自分の私的利益を超えて高まり、公共の利益を考えて判断する、つまり社会体の成員として考えることを想定している。それを可能にするのが社会契約である。ルソーは社会契約を説明して次のように述べている。「われわれ各人は、身体といっさいの能力とを共同のものとして、一般意思の最高の指揮のもとに置く。そしてわれわれは各構成員を全体の不可分な部分として全体として受け取る」(『社会契約論』1762)と。これに反して全体意思は、特殊意思の総和にすぎない。
[古賀英三郎]
『ルソー著、桑原武夫・前川貞次郎訳『社会契約論』(岩波文庫)』▽『ルソー著、河野健二訳『政治経済論』(岩波文庫)』