精選版 日本国語大辞典 「能力」の意味・読み・例文・類語
のう‐りょく【能力】
のう‐りき【能力】
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一般にはある一定の課題を遂行することのできる力をいうが,法律術語としては,法律上一定のことについて必要とされる資格(権利能力,行為能力,責任能力など)を意味する。一般に能力は,教育や環境などの後天的要因と素質的・生得的要因の複合の結果,個人の中に形成されるものである。これに対して,生得的素質によって規定されている個人の潜在的可能性を性能または資質capacityというが,能力という言葉はこれを含む上位概念として使われる場合もある。
ところで人間の能力の構造および規定要因をどのように考えるかは,時代と社会によって異なり,またしばしば論争の的になる。それは,能力観が人間観や教育観と密接に結びついてくるからである。たとえば能力は,しばしば運動能力,言語能力,認識能力,社会的能力,表現力,感受性などに区分されるが,その最も中心的な核は何であろうか。また,学校教育はその中でどの部分の形成をその課題としているのか。さらに,生活能力と知的能力の関連はどのようなものか。近現代における大工業の発展は,労働者の中に分業と協業の進行をもたらしたが,それは人間の能力の固定化と貧困化をもたらしたか否か。これらの問題は,人間の能力を〈全面的に発達させる〉ことが〈人間的幸福〉につながるという理念が,現実の社会の中では疎外されているだけに,その克服をめざす者にとっては論争的課題になる。また能力を素質的・遺伝的要因を重視して考えるか,教育環境要因を重視するかもつねにイデオロギー論争の的になる。素質的要因を重視する論は,しばしば性,人種,民族,階級における能力の差を,遺伝的な因子と結びつけて考え,教育の限界性,またある場合には優生学的な主張を展開することもある。1970年代前半,アメリカで,ジェンセンA.R.Jensenの提起した黒人と白人の知的能力における差をその両人種の遺伝的要因に結びつける主張は,アメリカにおいて深刻な論争をもたらした。また,今日の日本においても政府や財界によって主張される能力主義的政策(エリート教育の奨励,飛び級,早期選別,高校多様化政策)は,しばしばその根拠に能力遺伝決定論が援用されていることが多い。
しかし今日の発達心理学の発展は,人間の能力が教育や環境により変わる可能性のあることを明らかにした。そして,かつては最も変動しにくいといわれた知能指数(IQ)さえも変化することがわかり,〈知能恒常仮説〉はしだいにゆらぎつつある。個人としてみれば,人間の能力には限界があるが,社会と歴史の進展,教育の機会の拡大のなかで,その限界は無限の延長線上に広がりつつある。この可能性は特定の個人,選ばれた個人ではなく,すべての人間に及ぶように努めるのが教育の課題といえる。
執筆者:村越 邦男
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