なんらかの活動(動作や作業)を可能にする心理的・生理的条件のすべてをいう。一般には、訓練や発達過程の現段階における実行力あるいは達成力をさす。これに対し、最適条件下で訓練するならば到達可能とされる上限を潜在的能力、すなわち性能capacityとよぶ。この両者を含めて能力ということもある。能力は生得的・素質的条件と教育・訓練や過去経験とによって形成されるが、性能は生得的・素質的条件によって規定される。学問や芸術など特殊な分野で将来の訓練によって開花が予想される未開発の資質を才能talentといい、優れた技術的能力を技能skillとよぶ。また、言語能力などのように日常生活に必要な能力を実際的能力proficiencyという。
[肥田野直]
環境と効果的に相互交渉する能力をコンピテンスcompetenceという。これは、外界に変化を生じさせることができるという効力感を追求して、能力を生かそうと自発的に動機づけられて行動する結果、行動が熟達して自信をつけるという一連の過程を表している。
[肥田野直]
古典的な能力心理学では、精神現象を多くの能力facultyに分類記述しようとした。ドイツの哲学者であるC・ウォルフやスコットランドの哲学者のT・リードなどがその例であるが、これが19世紀後半になってくると、能力を実体化するものとして批判されるようになった。
[肥田野直]
わが国の憲法第26条には「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と定められており、教育基本法第3条はこれに加えて「人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によつて、教育上差別されない」と定めている。しかし、能力を明確に定めた条文はない。教育用語として「能力・適性」と並べることがあるが、この場合には、前者が現時点ですでに獲得しているもの、後者は教育や発達によって将来達成できるものをさすといえよう。また、すでに達成している成績(遂行)performanceまたは成績(学力)achievementは、結果として実際に示されているのに対し、能力は環境条件や本人の動機づけが十分でなければ成果に表れない。
能力は運動能力、知能、学力などに分けられ、一般的能力と特殊的能力にも分けられる。なお、どの能力に価値を置くかという能力観は、社会的・歴史的に規定されている。
[肥田野直]
法律上、一定の事柄に関する人の資格をいう。たとえば、民法上では、権利義務の主体となりうる資格である権利能力、自己単独で有効な法律行為をなしうる資格である行為能力、違法な行為による責任を負いうる資格である責任能力などがある。ただし、民法上で、単に能力という場合には、行為能力のことを意味する。なお、刑法上で、犯罪をなし刑罰を受けうる資格を犯罪能力、刑罰能力という。
[竹内俊雄]
一般にはある一定の課題を遂行することのできる力をいうが,法律術語としては,法律上一定のことについて必要とされる資格(権利能力,行為能力,責任能力など)を意味する。一般に能力は,教育や環境などの後天的要因と素質的・生得的要因の複合の結果,個人の中に形成されるものである。これに対して,生得的素質によって規定されている個人の潜在的可能性を性能または資質capacityというが,能力という言葉はこれを含む上位概念として使われる場合もある。
ところで人間の能力の構造および規定要因をどのように考えるかは,時代と社会によって異なり,またしばしば論争の的になる。それは,能力観が人間観や教育観と密接に結びついてくるからである。たとえば能力は,しばしば運動能力,言語能力,認識能力,社会的能力,表現力,感受性などに区分されるが,その最も中心的な核は何であろうか。また,学校教育はその中でどの部分の形成をその課題としているのか。さらに,生活能力と知的能力の関連はどのようなものか。近現代における大工業の発展は,労働者の中に分業と協業の進行をもたらしたが,それは人間の能力の固定化と貧困化をもたらしたか否か。これらの問題は,人間の能力を〈全面的に発達させる〉ことが〈人間的幸福〉につながるという理念が,現実の社会の中では疎外されているだけに,その克服をめざす者にとっては論争的課題になる。また能力を素質的・遺伝的要因を重視して考えるか,教育環境要因を重視するかもつねにイデオロギー論争の的になる。素質的要因を重視する論は,しばしば性,人種,民族,階級における能力の差を,遺伝的な因子と結びつけて考え,教育の限界性,またある場合には優生学的な主張を展開することもある。1970年代前半,アメリカで,ジェンセンA.R.Jensenの提起した黒人と白人の知的能力における差をその両人種の遺伝的要因に結びつける主張は,アメリカにおいて深刻な論争をもたらした。また,今日の日本においても政府や財界によって主張される能力主義的政策(エリート教育の奨励,飛び級,早期選別,高校多様化政策)は,しばしばその根拠に能力遺伝決定論が援用されていることが多い。
しかし今日の発達心理学の発展は,人間の能力が教育や環境により変わる可能性のあることを明らかにした。そして,かつては最も変動しにくいといわれた知能指数(IQ)さえも変化することがわかり,〈知能恒常仮説〉はしだいにゆらぎつつある。個人としてみれば,人間の能力には限界があるが,社会と歴史の進展,教育の機会の拡大のなかで,その限界は無限の延長線上に広がりつつある。この可能性は特定の個人,選ばれた個人ではなく,すべての人間に及ぶように努めるのが教育の課題といえる。
執筆者:村越 邦男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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