日本大百科全書(ニッポニカ) 「政治経済論」の意味・わかりやすい解説
政治経済論
せいじけいざいろん
De l'économie Politique
フランスの思想家ルソーの著。1755年に『百科全書(アンシクロペディ)』第5巻に執筆・発表したもの。本書は、人民の幸福を目的とする政府の守るべき原則を論じている点でロックの『政治二論』(1690)に比すことができる。ルソーは国家を管理運営することを公経済、政治経済、(政府による)行政とよび、その守るべき第一原理は、「つねに全体および各部分の保存と幸福を目ざし、法律の源泉となる」一般意志に従うことだと述べている。ルソーは一般意志は「民の声」に求められるとしているから、彼は人民主権論を念頭に置いていたといえよう。ルソーによれば、一般意志(主権)に基づいてつくられた法律を人民や政府が遵守するとき、人々の自由は安全なものとなり、政府はその権威を維持できる。またルソーは、公経済つまり行政の原則は、祖国愛に目覚めさせることによって人々の間に徳を行き渡らせることだという。ここでいう祖国とは、人々が社会契約によって設けた政治共同体つまり国家のことであるが、政治社会をつくる方法と一般意志に基づく政治の詳細については、後の『社会契約論』(1762)で展開されるであろう。『政治経済論』では、祖国愛に目覚めた徳を有する市民を育成する方法として、すべての人々の国政参加、貧乏人を金持ちの圧制から保護すること、財産の極端な不平等の防止、公平な課税の実施などを述べているが、これらの考え方は、本書以前に書かれた『人間不平等起源論』(1755)で展開した思想を基礎にしていることは間違いない。この意味で本書は、『人間不平等起源論』と『社会契約論』を結ぶ重要な位置にあるものといえよう。
[田中 浩]
『河野健二訳『政治経済論』(岩波文庫)』