改訂新版 世界大百科事典 「一般意思」の意味・わかりやすい解説
一般意思 (いっぱんいし)
volonté générale[フランス]
一般意思という語は,まずディドロによって,《百科全書》の〈自然法〉の項目において用いられている。彼は一般意思を各個人の特殊意思とは区別して,全人類の一般的かつ共通の利益に基づくものとし,これによって自然法を根拠づけた。これに対してルソーは,《政治経済論》においてこれを単一の存在たる政治体の意思とし,さらに《社会契約論》において国家理論の中心概念として位置づけたのである。ルソーによれば,国家は各個人が自己を共同体全体に対して全面的に譲渡するという全員一致の契約によって設立される。この社会契約によって国家は一個の意思をもった単一の人格として成立するが,この公的な意思こそが一般意思にほかならない。一般意思は,この共同体=国家の公的な利益を基礎とする意思であり,構成員各員の特殊意思の総和である全体意思とはまったく異なる次元にあるとされる。この一般意思の表現こそ法である。かくて法に従うことは一般意思の命令,すなわち,みずからがその一部をなす人民=主権者の意思に従うことにほかならない。ルソーのこの規定によって,法はその制定における意思の一般性と適用における対象の一般性とを獲得するのである。ところで各人の特殊意思は私的利益を追求するために,常に一般意思の命令たる法に違反することになる。このとき法的強制は各人の意思を公的な意思へと方向づけるものとして,〈自由への強制〉とみなされるのである。一般意思は,しかし,特殊意思とは異なる公的人格の意思であるから,それをいかに発見し,法として表現するかという問題が残る。この点についてルソーは,立法者という特権的存在の必要を指摘したにとどまるため,以後のルソー解釈の争点の一つをなしている。ルソー以後,一般意思の概念はしばしば既成の政治権力の神化に利用されたが,それがルソーの原理的な理論構成といかに無縁であるかは彼の著作自体に明らかであろう。
執筆者:吉岡 知哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報