改訂新版 世界大百科事典 「労働の義務」の意味・わかりやすい解説
労働の義務 (ろうどうのぎむ)
勤労の義務ともいう。憲法は〈すべて国民は勤労の権利を有し,義務を負う〉(27条1項)と定める。労働権が国民の国に対する具体的な請求権を意味するものではないのと同様に,ここでいう労働の義務は,それによって国に,国民に対して,働くことを請求する権利が生ずるといったものではない。労働することを法律で強制することは特別の場合を除き憲法で禁止されている(18条)。そこで労働の義務とは国民が憲法で保障された権利を保持する責任があること(12条)を再確認したものであると同時に,人はすべからく働くべきであるという一種の精神規定と解される。もっとも労働の義務は国民に働く機会を与えることにより生存を確保するという国の責務と対応するものであるから,国が国民の労働権ないし生存権を保障するために設けた制度は,労働の義務を放棄した者には適用されない。たとえば,失業給付や生活保護は働く能力がありながら働く意思のない者には支給されないことがある。
執筆者:松田 保彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報