改訂新版 世界大百科事典 「十二族長の遺訓」の意味・わかりやすい解説
十二族長の遺訓 (じゅうにぞくちょうのいくん)
Testaments of the Twelve Patriarchs
旧約聖書偽典中の一書。《創世記》49章のヤコブの遺訓にならって,ヤコブの12人の息子たちの,死の床での子らへの遺訓を記したもの。多くの場合《創世記》中の記事が他の素材によって補われつつ敷衍(ふえん)され,それに関連して倫理的な教訓が記される。思慮,質素,憐れみ,善行,貞節,純潔などが勧められ,嫉妬,傲慢,酒,姦淫,怒り,うそ,憎しみなどが退けられる。いくつかの遺訓にメシア待望が認められる。長い歴史が推測される成立発展の過程は不明であるが,マカベア(ハスモン)王朝を正当化する層,エッセネ派・クムラン教団的な層,キリスト教的な層が並存しており,ユダヤ教伝承のキリスト教的編集とみるべきか,ユダヤ教文書にキリスト教徒が加筆したものとみるべきか,なお定説を見いだしがたい。
執筆者:土岐 健治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報