デジタル大辞泉 「嫉妬」の意味・読み・例文・類語
しっ‐と【嫉妬】
1 自分よりすぐれている人をうらやみねたむこと。「他人の出世を
2 自分の愛する者の愛情が、他の人に向けられるのを恨み憎むこと。やきもち。
[補説]作品名別項。→嫉妬
[類語]羨ましい・ねたましい・焼き餅・ジェラシー・悋気・おか焼き・法界悋気・妬心・羨む・羨望・ねたむ・そねむ・やっかむ・焼く・焼ける
日常的に、他人の優れた点に引け目を感じたり、恨んだり憎んだりするというほどの感情であるが、それが高じて激しい憎悪や敵意をもつ場合もある。もっとも一般的にみられる嫉妬は、ライバル同士の間のものであり、兄弟姉妹の間で親の愛情をひとり占めしようとするのはその典型的なものである。自分より相手のほうが好かれているのではないか、自分のほうが嫌われているのではないか、自分のものが奪われてしまうのではないかという心配から、競争相手を憎み、敵意を抱き、恨み、排除したいと思うようになってくる。こうした嫉妬の感情は幼児のエディプス期に強く現れるものであるが、兄弟姉妹は仲よくしなければならないという両親の要請、社会的要請によって抑圧される。女の子にみられる男根羨望(せんぼう)はこのころに現れるが、これは男性に対する一種の嫉妬である。抑圧された嫉妬は無意識的なものとなり、明らかに嫉妬する根拠のない場合にも現れることがある。フロイトは嫉妬を正常な嫉妬、投影された嫉妬、妄想的嫉妬の三つのタイプに分けている。
夫婦間にみられる嫉妬(やきもち)には、自分が相手に対して不誠実であることを隠蔽(いんぺい)するために、不実なのは相手であると告発することで自己弁護の役割を果たすものもある。結婚していても他人(異性)に魅力を感じることは当然なことであるが、エディプス・コンプレックスが十分に清算されていない人は、社会的に容認された範囲内のものであっても、自己の不誠実を隠し、自己弁護をしようとして嫉妬する。これが投影された嫉妬であり、この種の嫉妬が激しくなると妄想的なものとなる。フロイトによれば、妄想的な嫉妬は同性愛の願望を防衛する働きをもつ。
[外林大作・川幡政道]
『G・ドウピエール著、荻野恒一・杉田英一郎訳『嫉妬の心理』(1961・中央出版社)』▽『フロイト著、井村恒郎訳「嫉妬、パラノイア、同性愛に関する二、三の神経症的機制について」(『フロイト著作集6』所収・1970・人文書院)』▽『荻野恒一著『嫉妬の構造』(1983・紀伊國屋書店)』▽『詫摩武俊著『嫉妬の心理学――人間関係のトラブルの根源』(光文社文庫)』
フランスの作家ロブ・グリエの長編小説。1957年刊。ヌーボー・ロマン(新小説)の代表作とされている。植民地アフリカのバナナ園を舞台に、妻と隣のバナナ園主との情交を疑う夫の視点から、綿密かつ無機的に彼らの言動、周囲の事物、風景が描写され、しかも夫の存在が言及されないため、描写間の脈絡のなさが読者をとまどわせる。しかし、屋内の事物の相次ぐ描写がそのまま、歩行する彼の視覚に映じたものだとわかるときから、読者は一挙に彼の内面に転がり込み、彼とともに妻の行動を探り、不審な場面を回想し、外泊した2人の密通を想像して、嫉妬の炎に身を焼かれることになる。このうえもなく客観的な描写が、狂的な情念の嵐(あらし)の形に構造化されている異色作。
[平岡篤頼]
『白井浩司訳『嫉妬』(1959・新潮社)』
自分が所有したいと望むもの,または所有していると思うものを他人に奪われる際の苦痛の感情。所有欲ないし独占欲とそれが犯される危機感が条件だから,他人が自分より多くのものを持っていると感ずるだけでは,羨望は生じても嫉妬は生じない。人間にとって最も基本的な感情の一つで,2,3歳の幼児でも弟や妹が生まれて母親からかまってもらえなくなると,母の愛情を奪われたと感じて弟や妹を嫉妬し,敵意を向ける。これをカイン・コンプレクスといい,アベルをねたんで殺した旧約聖書のカインの故事に由来するが,さしずめカインは人類最初の嫉妬者だったことになる。さきの定義から,所有欲が強い人は一般に嫉妬心も強いが,それが正常範囲を越えると〈嫉妬妄想delusion of jealousy〉になる。統合失調症では被害妄想の一環として,自分の配偶者が外で不貞を働いていると信じこみ,アルコール依存症では妻への嫌悪感と本人の性的不能から同様の妄想を抱きやすい。
執筆者:宮本 忠雄
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…こうした傾向を集約した人間学の新しい理論として登場したのが,フロイトの精神分析学であるが,それと呼応するかのように,プルーストは畢生の大作《失われた時を求めて》(1913‐27)で,〈私〉の独白に始まる自伝的回想が,そのまま写実的な一時代の風俗の壁画でもある空間を創造して,心理小説に終止符を打った。人物や家屋や家具の純粋に視覚的な描写の連続のしかたが,そのまま観察者=話者である主人公の嫉妬の情念の形象化でもあるようなロブ・グリエの《嫉妬》(1957)は,プルーストの方法をいっそうつきつめた成果であるが,その先駆者は《ボバリー夫人》(1857)のフローベールにほかならない。 この観点からすると,どんなに写実的であろうと,すべての小説は心理小説であるという逆説も成り立つ。…
…たとえば,愛する人が死んだとき,われわれは自分を責めるものだが,それは他方ではその人を憎んでいて,その死を願っていたため,あたかも自分が殺したかのように感じるからである。嫉妬もアンビバレンスの表れである。もし愛しか存在していないなら,恋人が別の人に走っても,その幸福を願うはずだから。…
※「嫉妬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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