日本大百科全書(ニッポニカ) 「千金方」の意味・わかりやすい解説
千金方
せんきんほう
医学書。正式の書名は『備急千金要方(びきゅうせんきんようほう)』。30巻よりなる。中国、唐代の孫思邈(そんしばく)によって650年ごろに著された。人命はたいせつなものであり、千金の貴さがある、一つの処方でこれを救うというのは徳がこれを超えるものであるためである、ということから書名とされた。巻一は総論で、医師の心得、診断法、薬の処方・用法・調製法などを述べている。巻2~4は婦人病、巻五は小児病、巻六は七竅(きょう)、巻七は風毒脚気(かっけ)、巻八は諸風、巻9~10は傷寒、巻11~20は肝臓・膽腑(たんぷ)・心臓・小腸腑・脾(ひ)臓・胃腑・肺臓・大腸腑・腎臓(じんぞう)・膀胱(ぼうこう)腑などの臓腑について述べている。巻21~25は消渇・淋閉(りんへい)・尿血・水腫(すいしゅ)・丁腫・癰疽(ようそ)・丹毒などで、うち五巻で痔漏(じろう)・解毒・備急について述べている。巻26は食治、巻27は養性とともに按摩(あんま)法・調気法・服食法などを記している。巻28は脈診、巻29~30は鍼灸(しんきゅう)についての記載がある。多くは出典が記されておらず、大部分は当時の処方を集録したものとされる。この書は唐代から宋(そう)代にかけて広く用いられ、のちに『千金方』を扶翼する目的で『千金翼方』30巻が著された。
[山本徳子]