改訂新版 世界大百科事典 「孫思邈」の意味・わかりやすい解説
孫思邈 (そんしばく)
Sūn Sī miǎo
生没年:?-682
中国,初唐の道士,医家。京兆華原(陝西省耀県)の人。初め太白山で道術の修行に励んだ。その後,太宗,高宗に相次いで招かれて都に住み,宋令文,孟詵(もうせん),盧照鄰(ろしようりん)ら当時著名の文人らと交わったが,終生官途には就かなかった。彼は道儒仏三教一致の立場に立ち,《老子》《荘子》の注釈を著す一方,律宗の高僧道宣とも親しく交わり,とりわけ《華厳経》を尊重した。また,道術と不可分の医薬学にとくに深い造詣を有し,《千金要方》《千金翼方》などの医書を著して,中国医薬学史上に不朽の名を刻んでいる。彼の医薬学は,中国古典医薬学の基盤の上に,梁の陶弘景以来の草木薬重視の方針を踏襲推進し,さらに道教的養生術や禁呪,西域系医薬学などを網羅総合したことに特徴がある。また,《千金方》はいち早く日本にも将来されて,丹波康頼の《医心方》などに多大な影響を与えた。なお,後世,孫思邈は民間において,〈薬上真人〉と尊崇され,薬王廟に医神としてまつられるとともに,道家においては,仙人としての伝承が数多く残されている。
執筆者:麦谷 邦夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報