単電子記憶素子(読み)たんでんしきおくそし(その他表記)single-electron memory

日本大百科全書(ニッポニカ) 「単電子記憶素子」の意味・わかりやすい解説

単電子記憶素子
たんでんしきおくそし
single-electron memory

電子1個の動きによって動作する記憶素子。現在の半導体記憶素子は多数の電子の平均的なふるまいにより電圧電流が決まる。しかし、0.1マイクロメートルの加工寸法で1チップにギガビット以上と高集積化が進むと、半導体メモリの1セルに蓄えられる電子の数が数百個と少なくなる。このため、個々の電子のばらばらなふるまい(揺らぎ)が顕在化し、電子は統計的に取り扱いにくくなり、素子としての動作ができなくなる。そこで、電子の増減がむずかしい原子スケールでの電子1個に着目すれば揺らぎの問題が克服できるとして、1987年に単電子記憶素子の可能性がロシアのリクハレフKonstantin K. Likharevにより提案された。ゲート電極をつけた、孤立した島状の容量性の微小導体に、トンネル効果を可能にした接合微小電極を複数個並べると、加える電圧により電子を1個ずつトンネル接合を通り抜けさせて閉じ込めることができることを利用したものである。

 1993年4月に日立ケンブリッジ研究所とイギリスケンブリッジ大学で、極低温動作ではあるが、トンネル接合を数個並べた構造で単電子の記憶が実験的に確認されていて、128メガビットのメモリーには成功しているが、10ナノメートル以下の微細加工が必要なため製品化はされていない。原理的にソフトエラーに強いことから、超高密度・大容量のフラッシュメモリー、高速RAM(ラム)用に期待されている。

[岩田倫典]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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