イギリスのケンブリッジにある大学。オックスフォード大学とともに〈オックスブリッジ〉または〈キャムフォードCamford〉と呼ばれ,古い歴史と伝統を誇る。校色は,オックスフォード大学の暗青色Oxford blueに対して,淡青色Cambridge blue。1829年以来,両大学対抗ボート・レースが毎春,テムズ川で催される。
ケンブリッジ大学の歴史は,1209年のオックスフォード大学の学生処刑事件を契機とする学生の大量移住に始まるといわれる。13世紀末までに大学としての体裁を整え,1318年には教皇の認可を得た。この間,学生数の増加に伴い,裁判上の特権をめぐって市民としばしば対立,〈タウンとガウン〉の争いと呼ばれる流血騒ぎを起こし,そのつど国王からの支持の下に,特権を獲得していった。学生は,教師が借りた下宿hostelで生活し,そこで自由七科の講義を受けたが,卒業後さらに研究の継続を欲する貧しい学生を対象に学寮collegeが建設された。オックスフォード大学のマートン学寮にならって1284年に設立されたピーターハウスがその最初である。14世紀後半からは,ウィクリフらの異端が出て名声を落としたオックスフォード大学と入れ替わり,隆盛に向かった。1434年司教と市当局から完全に独立。社会の要請に応じ,卒業生の多くは聖職者となった。
15世紀中ごろイタリアの人文主義の影響の下に,ギリシア語・ラテン語を中心とした古典語教育が主流となり,16世紀前半にはエラスムスが一時教鞭をとった。英国国教会の樹立に伴い,教皇の支配を離れて国王との関係を深めた。1540年,ギリシア語以下五欽定講座が設置され,46年トリニティ学寮が建設される。71年のエリザベス女王の法により学寮を主体とした大学に変貌し,大学運営も学寮長の寡頭体制となる。ピューリタン的色彩を強め,新たにエマヌエル学寮などが建設され,学生もジェントリーや富裕な商人から多く迎えるようになった。1603年〈三十九ヵ条の信仰告白〉への署名を,入学時ではなく学位授与時の義務とし,国教会による大学の独占が決定的となる。また,04年下院に2議席をもつようになった。
ピューリタン革命中は議会派の支持基盤となったが,逆に王政復古(1660)とともに国教会の支配が決定的となり,貴族・ジェントリー層出身の学生が圧倒的になるにつれ,聖職者養成機関としての性格がしだいに弱まった。17世紀後半にはケンブリッジ・プラトン学派やI.ニュートンが活躍したが,教育・研究活動は低調で,時代の要請にはこたえず,オックスフォード大学とともに非国教徒などの新興中産階級からの厳しい批判を受けた。
18世紀後半,一部自由派による〈三十九ヵ条の信仰告白〉署名義務廃止の動きも大勢とはならず,産業革命に伴う社会変貌という状況のなかではじめて改革に乗り出す。1824年,それまであった数学の卒業優等試験triposに,古典学が加えられ,51年には自然科学にもそれが拡大された。議会からの干渉の下に,71年には〈三十九ヵ条の信仰告白〉への署名義務が廃止されて非国教徒にもようやく開放され,大学行政も民主化され,教授職も増加,聖職者養成機関よりは学問研究の府たる性格を強めた。女子学生専用学寮として69年にガートン学寮,71年にニューナム学寮が建設されたほか,19世紀後半の改革により学生数も増加した。1920年国家の奨学金が大幅に増加するにつれ,中流の下ならびに労働者の子弟の入学も可能となり,過去のような支配エリートの独占機関ではなくなった。学寮数31,1996年の学生数約1万4500,教員約1500。
執筆者:鈴木 利章
各学寮には中世以来の歴史的建造物が多い。オックスフォード大学と同様に学寮は門楼棟を伴う中庭形式をとり,ときに第二,第三の中庭を囲んで建物が並ぶ。キングズ学寮の礼拝堂(キングズ・カレッジ・チャペル)(1446-1515)は全長88m,典型的なファン(扇状)・ボールト天井をもつ垂直様式ゴシック建築の最高傑作のひとつ。クイーンズ学寮第二中庭には,煉瓦造のアーケードに支えられた木骨白壁の学監舎(1540)があり,セント・ジョンズ学寮では,中世城塞風の門楼棟(1520)や,ハンマー・ビーム天井をもつホール(1516)が注目される。ペンブローク学寮の礼拝堂(1663)はC.レンの最初の建築作品である。学寮共用の施設としては,1722年J.ギブズ設計になる古典主義様式の大学評議員会館のほか,ベースビーGeorge BaseviとC.R.コッカレルによるコリント式列柱正面をもつ古典主義様式のフィッツウィリアム博物館(1837-47)などが優れる。
執筆者:藤本 康雄
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イギリスの、伝統と由緒ある大学。起源は12世紀にさかのぼることができるといわれるが、一般には1209年オックスフォード大学から、多数の学徒が市民との騒擾(そうじょう)を避けて移動したことに求められる。1226年総長が任命され、ついでヘンリー3世は市長に通告を出し、国に名誉と利益をもたらす学生を歓迎するように命じた。最初の学寮(カレッジcollege)は1284年に設立された。1318年教皇ヨハネス22世が、全キリスト教国に通用する学位の認定をこの大学に承認したことにより、名実ともに一流の大学に発展した。ルネサンス期には新学問の一中心として栄えたが、これは人文主義者エラスムスの来講に負うところが大きい。ここはまた宗教改革運動の拠点でもあった。17世紀後半にはニュートンの指導のもとでとくに数学の研究が進み、大学の名声はひときわ高まった。制度改革は19世紀なかば以降着々と進み、非国教徒への開放、自然科学部門の拡充、講座増設、施設の拡張・整備などが行われた。
[松垣 裕]
オックスフォード大学とともに「オックスブリッジOxbridge」と称されるように、組織や慣行において両校ともよく似通っている。カレッジの規模はケンブリッジのほうが少し大きい。2000年現在、トリニティ・カレッジやキングズ・カレッジなど31のカレッジがある(うち三つが女子カレッジであとはすべて男女共学)。カレッジ制度とチュートリアル・システムtutorial systemを基盤とした少人数手作り方式の大学教育を標榜(ひょうぼう)している。カレッジのフェローfellowとよばれる教師の大半がユニバーシティ(全学)の教師職を兼任し、ユニバーシティの教職員のほとんどがカレッジのフェローないしそのメンバーでもある。全学の教育・研究組織である学部facultyは21を数える。有名なキャベンディッシュ研究所も全学の施設である。ニュートン以来の伝統から科学研究に特色があるといわれ、過去に60人以上のノーベル賞受賞者を出しているが、専攻分野ごとの学生数は人文学と科学それぞれほぼ均衡している。
1997年現在、フルタイムの学生数1万5500人強。そのうち約4500人は大学院レベルの学生である。学生の約15%は130を超す国々からの留学生が占める。教職員数約7000人。
[安原義仁]
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オックスフォード大学に次いで英語圏で2番目に古い歴史を持つイングランドの大学。13世紀初頭に起きた町の人々との対立を契機とするオックスフォードからの学徒の移住を起源とする。ニュートン,ダーウィン,バイロン,ケインズ,バートランド・ラッセルはじめ多数の著名人を卒業生に持つ当大学は,いわゆる「旧大学」としてオックスフォード大学との間に多くの共通する歴史や特徴を有し,両者を合わせてしばしばオックスブリッジと称される。大学は自治権を持つ31のカレッジから構成されており,学部学生はカレッジにおいて「スーパービジョン」と呼ばれる少人数形式の授業を受ける。カレッジとは別に全学的教育・研究運営組織として,それぞれが複数の学部・学科から構成される六つの学群(school)も置かれる。卒業生とかつてのスタッフの中から90人のノーベル賞受賞者を輩出し,QS社の世界大学ランキング(2016年)では4位に位置する。
著者: 福石賢一
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出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
オクスフォード大学と並んでイギリスを代表する大学。1209年,住民と対立したオクスフォードから多数の学生が移動してきて成立。84年に最初のカレッジが設けられた。宗教改革運動の中心になったが,18世紀には沈滞。19世紀以降はイギリス本国と植民地における支配者の養成機関として隠然たる勢力を占めるとともに,自然科学にもおいても成果をあげるようになった。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
…イギリスのオックスフォードにある大学。中世以来ケンブリッジ大学とともに高等教育を独占した。19~20世紀にはロンドン大学等が新設されたが,これらは〈赤煉瓦大学redbrick university〉〈新大学〉と蔑称され,オックスブリッジOxbridgeと略称された両大学から社会的に区別された。…
…しかし,この種のコレージュはフランスにおいてではなく,カレッジとしてイギリスで独特の発達をとげた。パリ大学から分離したオックスフォード大学,そこからさらに分離したケンブリッジ大学は現在でも独立した名称と自治権をもつカレッジの集合体である。ただし,かつてはイートン・カレッジEton Collegeのような中等段階の学校をさす場合もあり,これはフランスのコレージュが16世紀以来中等学校の一種であることに対応する呼名である。…
※「ケンブリッジ大学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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