日本大百科全書(ニッポニカ) 「叡智」の意味・わかりやすい解説
叡智
えいち
Sagesse
フランスの詩人ポール・ベルレーヌの詩集。1881年初版。パリ、カトリック出版協会刊。『知恵』(堀口大学訳)、『かしこさ』(橋本一明訳)の邦訳題名もある。ランボー傷害事件のすえの投獄(1873)、妻からの訴訟に対して下った離婚承認判決(1874)などに打ちのめされ、獄中でカトリックへの回心を体験した作者が、「信仰の公約書」を世に問う意図のもとに編んだ。1873~80年製作の詩から48編を3部に分類、収録。第2部4詩編の、罪の底からの神との対話に表れる、ひたむきな魂の劇が多くの感動をよぶ。しかし、主題も律動もさまざまな詩の集まる第3部を、宗教的詩の世界とは定義できない。詩人の従来の詩法につながる、自然を通しての内観法による傑作が含まれている。ことばの音楽を求めての近代詩人の冒険の劇的終末を照らす光源ともみられる一巻である。
[中安ちか子]
『鈴木信太郎他訳『世界文学大系48 ヴェルレーヌ詩集』(1975・筑摩書房)』