吉田カバン(読み)よしだかばん

知恵蔵 「吉田カバン」の解説

吉田カバン

日本のカバンメーカーである株式会社吉田やその製品の呼び名。PORTER(ポーター)やLUGGAGE LABEL(ラゲッジレーベル)などのブランドを展開し、堅牢で実用的なことなどから広く親しまれる。同社製品を、婚約前の美智子皇后がかつて使っていたり、黒沢明の映画で使われたりして注目を集めた。値下げも大量生産もせず、国内生産にこだわるという姿勢で好評を博している。
同社は、カバン職人であった創業者の吉田吉蔵(吉田の吉は土に口)の「一針入魂」の精神を引き継ぎ、自社工場を持たず海外生産もしないという考えで、国内の職人や工房と契約して生産する。吉田吉蔵は1906年に神奈川県で生まれた。12歳の時に東京・上野の老舗カバン工房に弟子入りし、カバン作りの腕を磨いた。23年に関東大震災に遭遇、その17歳の経験から「カバンとは第一に荷物を運ぶ道具でなければならない」(吉田カバンホームページより)と考えるに至る。好奇心が旺盛で自分の力を試したいと35年に29歳で独立、新しいものを作ろうと「吉田鞄(かばん)製作所」を立ち上げた。「使うほどに馴染み、永く愛用していただけるカバン」作りを目指す。日本の職人の素晴らしさは世界一という考えから、職人を大事にした。このため、職人への支払いは現金に加えて夏は米、冬は炭を添えて渡した。また、94年に、ファッションの裏方を讃えるミモザ賞を受賞する際は、表彰盾に同氏とともに「吉田カバンの職人衆」を併記するよう求めたとの逸話もある。同年に88歳で亡くなるまでカバン作りを極め続けたという。
吉田鞄製作所は51年に株式会社吉田に改組。53年に開発したファスナー開閉によってマチ幅を自在に拡張できるエレガントバッグが大ヒット。日本のバッグメーカーが自社ブランドを持つことが珍しかった62年、初の自社ブランドであるポーターを発表。その後、68年にバロン、83年にタンカーシリーズ、84年にラゲッジレーベルと、次々にブランドを発表。94年には渋谷パルコpart1に初のオンリーショップ「KURA CHIKA」をオープンさせた。同店は吉蔵の「蔵」と妻の千香の名前を合わせて命名された。ポーターマグナムとラゲッジレーベルトレックが、2007年度グッドデザイン賞を受賞。吉田カバンのブランド商品は、限られた店舗や通信販売で売られ、しばしば品薄となる。このため、インターネットオークションなどで高値で売買されたり、偽物が出回って逮捕者が出たりしたこともある。

(金谷俊秀  ライター / 2014年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android