啓蒙の弁証法(読み)けいもうのべんしょうほう(英語表記)Dialektik der Aufklärung

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「啓蒙の弁証法」の意味・わかりやすい解説

啓蒙の弁証法
けいもうのべんしょうほう
Dialektik der Aufklärung

フランクフルト学派の M.ホルクハイマーと T.アドルノ共著。 1948年刊。基本的なモチーフは,野蛮からの解放を約束したはずの啓蒙理念が次第に道具化し,人間や物は操作,管理,支配の材料でしかなくなると同時に近代理性自体も道具化していつしか再び野蛮へと退落していくプロセス解明にある。啓蒙の自己展開は自然支配に必然的に支えられているが,それは外なる自然の支配のみならず人間の内なる自然の支配にまで拡大される。しかし著者たちは理性の自己崩壊を見すえつつも,そこに理性の自己批判能力の可能性を回復しようと試みる。そこでは個や特殊性を救済する「限定された否定」や自然との宥和を志向する「ミメーシス」などの概念が暗示的に提起されている。

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世界大百科事典(旧版)内の啓蒙の弁証法の言及

【アドルノ】より

…33年当時M.ホルクハイマーの指導下にあった〈社会研究所〉のメンバーとなるが,ナチスの政権獲得後イギリスを経てアメリカに亡命を余儀なくされる。アメリカ滞在中,ホルクハイマーと共著で,近代的合理性ないし西欧文明への根本的省察とも言うべき《啓蒙の弁証法》(1947)を出版。またアメリカの学者と共同して精神分析と世論調査の手法を結合した潜在的ファシズムの研究《権威主義的パーソナリティ》(1950)を著す。…

【ヒューマニズム】より

ハイデッガーの《ヒューマニズムについて》(1949)は,こういう多義性に直面して,〈ヒューマニズムという言葉に一つの意義を取り戻すことができるか〉という問いに答えようとしたものであるが,彼はヒューマニズムを,存在者の存在についての特定の解釈を前提にした形而上学の系譜に属するものとして,それから一線を画し,人間中心主義の形而上学の超克という方向で,むしろヒューマニズムを超えることを志向している。また,ハイデッガーに次いで1960年代以降ドイツ哲学界の声望を集めたアドルノは,自然支配の原理のうえに自己を確立してきた人間主体が,逆に自然に隷従するという《啓蒙の弁証法》(1947)の立場から,人間の自己疎外の問題を,むしろ自然の自己疎外の問題としてとらえ直そうとしている。ここには他の一切の差異にかかわらず,ヒューマニズムの基礎にある人間中心主義の形而上学の超克という動機が働いているといえるだろう。…

【ホルクハイマー】より

…〈西欧的マルクス主義〉の動機を受け継ぐ〈批判的理論〉の定礎づけに努めるとともに,学際的な共同研究《権威と家族》(1936),《偏見の研究シリーズ》(1950)を主宰。アドルノとの共著《啓蒙の弁証法》(1947)のほか,《批判理論Kritische Theorie》2巻(1968),《道具的理性批判》(1967)などがある。【徳永 恂】。…

※「啓蒙の弁証法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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