喫煙はなかなかやめることができません。それは、喫煙がニコチン依存症という精神疾患の一種だからです。アヘン、大麻、コカインと並んで、たばこの依存症は「精神および行動の障害」という疾病分類に入っています。
常習喫煙者が禁煙すると、たばこへの渇望、短気、集中困難、不安、落ち着きのなさ、空腹などのニコチン
「最近、健康のためにたばこの本数を減らしているんだ」とはよく聞く言葉です。確かに、何も考えずに好きなだけスパスパふかすよりは、心がけとしてはいいでしょう。しかし、本数を減らした場合、たばこをこれまでより深く吸う、あるいは根元まで吸うことが知られています。また、本数を減らしたところで、有害物質を体に取り込んでいることに変わりありません。
喫煙者の過半数は、喫煙あるいは節煙したいと思っているという報告があります。しかし、実際には「どうせ自分には禁煙なんてできない」と最初からあきらめてしまったり、やめた時に感じる不安感、喪失感を恐れて禁煙に踏み切れない人も多いようです。また、本当はやめたいけれど、他人からいわれてやめるのはいやだというのも正直な気持ちでしょう。
これは別に、意志が特別弱いとか、プライドが高すぎるという問題ではありません。「禁煙の目的を明確にしていない」から、本気で禁煙に取り組むことができないのです。
禁煙に取り組む意志を強くするには、何よりも、たばこに関する正しい知識を身につけ、喫煙の害がいかに大きいかを知ると同時に、禁煙によって何を得るかに目を向けることが大切です。
また、たばこをやめる過程で意外にも大きな障害になるのが、スモーカー仲間の誘惑です。「たばこをやめるとかえってストレスになる」とか、「おれの祖父は80歳までたばこを吸っていたが元気だった」などの誘い言葉にのって、ついついたばこに手を伸ばしてしまう人も多いようです。こんな誘惑に負けないためにも、強い動機をもって禁煙に臨むことが、成功への近道といえるでしょう。
たばこ(ニコチン)に対して、どのくらい依存しているかを手軽に評価できる方法として、ファガストロームのニコチン依存度テスト(表16)があります。依存度が高いほど自力での禁煙は難しくなります。
禁煙することで、その病気にかかる危険性がどの程度低下するか(表17)を知っておくことは、禁煙を実行するうえで重要です。挫折しそうになったら思い出すようにしてください。
第1に、禁煙にあたっては、それまでの喫煙する時の状況や時間などを喫煙日記として書いておきます。これにより、自分がいつ、どのような状態でたばこを吸うのかがわかります。
第2に、なぜ喫煙をやめるのかを紙に書いて、いつでも再確認できるようにしておきます。動機が明確でないと、禁煙の目的を忘れて、再びたばこを吸い始めることになります。
第3は、禁煙によるメリットを紙に書いて、いつでも再確認できるようにします。禁煙によって享受できるメリットを確認することで、禁煙の意志を強固なものにします。
第4は、禁煙当初、ニコチン切れによる離脱症状が現れることを知っておきます。離脱症状には、たまらなく吸いたい、不安、怒りっぽい、だるい、口が乾く、頭がボーッとするなどです。このような症状が現れることを事前に知っておくことで、不安は軽減されます。
たばこを一気にやめる断煙法と、少しずつ減らす節煙法があります。どちらが適しているかは個人差があります。節煙法では、まず1日10本以下になるように減らしていき、そこから一気に断煙します。どうしてもできない場合は、さらに少しずつ減らしていきます。
ニコチン
禁煙はあくまで本人の意志によって達成されるもので、ニコチン置換療法はそれを助ける「補助」と位置づけられます。したがって、禁煙達成のためには、禁煙したい気持ちと十分な動機が大前提であり、禁煙補助剤だけでは成功しません。
●ニコチンガム
ニコチン含有ガム製剤が薬局でも購入できます。ニコチンガムを用いた治療法は、禁煙を容易にするニコチン置換療法のひとつであり、ニコチンガムからニコチンを供給する方法です。
ニコチンガム1個には、2㎎のニコチンが含まれ、30分かけて徐々に口腔粘膜から吸収され、たばこを1本吸った時の約半分の血中ニコチン濃度が得られます。たばこを吸いたくなったら、1個をゆっくりと約30分口の中に入れます。通常、1日6~12個から始め、1日の使用量を徐々に減らしていきます。1日1~2個となった段階で終了します。
●ニコチンパッチ
ニコチンパッチは、ニコチンを含んでいるパッチを皮膚に貼付し、皮膚からニコチンを体内に吸収させるものです。皮膚吸収のため、ニコチンガムに比べ遅効性であり、また、たばこを吸った気分は得られません。
パッチには含有量によって3種類の異なる大きさ(用量)があり、禁煙を開始して1~6カ月間は大きなシールを使います。その後、少量のパッチに替えていき、最後に離脱します。
和田 高士
たばこの煙は、喫煙者の肺内に吸い込まれる
ニコチン、タール、一酸化炭素、これらは俗に「たばこの3悪」と呼ばれ、たばこの煙に含まれる代表的な有害物質です。たばこ煙には4000種類もの化合物が含まれており、そのうち200種類以上は有害物質で、40種類以上に発がん性があるといわれています。
こうしたたくさんの有害物質を、毎日体に取り込んでいたらどうなるでしょうか。体によいはずがありません。喫煙によって発症の危険性が高くなる疾患を「喫煙関連疾患」といいます。
喫煙は肺がんをはじめ、多くの疾患の発生に関与します。肺がん、喉頭(こうとう)がん、
まさに頭からつま先に至るまで、体中にさまざまな疾患が起こる危険性があります。喫煙が「緩慢なる自殺」と呼ばれるのはこのためです。近年は喫煙率、一人当たり消費本数は減少しているものの、たばこの身体への悪影響はかなり遅れて出現することから、喫煙関連疾患による死亡者数も増加の一途をたどっています。
わが国におけるリスク要因別の死亡者数の検討では、喫煙が最も死亡数に影響していることが判明しました(図8)。喫煙者の多くは、たばこの害を十分に認識しないまま、未成年のうちに喫煙を開始した人が多いようです。これらの人たちは、成人になってから喫煙を開始した人に比べて、たばこ関連疾患にかかる危険性はより大きくなります。
さらに、本人の喫煙のみならず、周囲の喫煙者のたばこ煙による「受動喫煙」も、肺がんや虚血性心疾患、呼吸器疾患、乳幼児突然死症候群などの危険因子です。
逆にいえば、たばこを吸わないこと、あるいは禁煙することはたいへん効果的な疾病対策ということができます。喫煙が将来もたらすであろう数々の疾患を予防することになるからです。
喫煙者が吸っている煙だけではなく、喫煙者が吐き出す煙にも、ニコチンやタールをはじめ多くの有害物質が含まれています。本人は喫煙しなくても身の回りのたばこの煙を吸わされてしまうことを受動喫煙といいます。
たばこが原因で2014年度には100万人以上が、がんや脳卒中、心筋梗塞などの病気になり、喫煙で1兆1700億円、受動喫煙で3200億円の医療費が発生し、患者数は喫煙で79万人、受動喫煙で24万人にも上っています。
1960年代の欧米先進国では、たばこによる疾患や死亡がすでに現在の日本に近い状況であり、このころよりさまざまなたばこ抑制策(消費者に対する警告表示、未成年者の喫煙禁止や、公共の場所の禁煙、たばこ広告の禁止などのさまざまな規制や、たばこ税の増額など)を講じた結果、国民の喫煙率や一人当たりのたばこ消費量が低下しました。その成果は最近になってようやく、男性におけるたばこ関連疾患の減少という形で現れつつあります。
日本においては、厚生労働省、人事院、東京都などが、指針を示して分煙の環境づくりを進めてきました。その結果、公共の場所、とくに鉄道・飛行機などの輸送機関における禁煙・分煙はかなり進んできましたが、多くの職場やレストランなど、その他の施設では不十分であるとの現状が指摘されていました。
2002年、厚生労働省は健康増進法第25条により「学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない」こととしました。
和田 高士
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…タバコの煙の中にはベンツピレンはじめいろいろな癌原性炭化水素が含まれており,1本のシガレットを吸うと,約30ngのベンツピレンを吸入することになる。アメリカにおいてハモンドG.Hammondが1959‐65年に100万人以上の男女を追跡調査した結果によれば,男子において非喫煙者の死亡率を1とすると,喫煙者の肺癌による死亡率は,1日20~39本吸う人では15倍,40本以上の人では19倍である。深く吸い込む習慣のある人ほど,また喫煙を始めた年齢が若いほど,肺癌になる危険率が高い。…
…いずれにしてもこれらの分布状態から,南アメリカのボリビア南部からアルゼンチン北部にかけてのアンデス山脈東側の地帯が栽培タバコの発生の地と推定されている。
[日本への伝来]
タバコの喫煙は紀元前から中央アメリカのインディオに始まるといわれ,5世紀ごろのマヤ民族の遺跡には,神官が煙をふかしているレリーフが残っている。タバコは旧世界には15世紀末にコロンブス一行により伝えられた。…
…すなわち,血糖からみた糖尿病の重症度と血管障害発生との間に相関がなく,また血糖をコントロールしておいても血管障害が発生する場合のあることなどから,高血糖は糖尿病における粥状硬化の主要な病因にはなりえないという説が提唱されている。糖尿病(4)肥満 肥満そのものが動脈硬化の悪化因子として強調された報告は少なく,高血圧,高コレステロール血症,喫煙の習慣などが伴うと高度に動脈硬化を悪化させる。肥満(5)ストレス 動脈硬化症には当然代謝異常としての身体面の異常が存在するわけであるが,この代謝異常には心理的な問題が影響を与えることが知られている。…
※「喫煙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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