内科学 第10版 の解説
多発性骨髄腫:骨髄腫関連疾患の神経障害(血液疾患に伴う神経系障害)
骨髄中の形質細胞の増加と免疫グロブリン増加を特徴とする骨髄腫関連疾患の中で,多発性骨髄腫,Crow-Fukase 症候群,MGUS などが神経障害を呈する.
a. 多発性骨髄腫
多発性骨髄腫でみられる神経障害は末梢神経障害であり,その多くは病的骨折による脊髄や神経根の圧迫によるが,傍腫瘍症候群として感覚優位の多発ニューロパチーや筋力低下・筋萎縮を伴う慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)様ニューロパチー,合併するアミロイドーシスによるアミロイドニューロパチーなどがみられる.また化学療法,サリドマイドなどによる治療関連末梢神経障害の頻度も少なくない.
b. Crow-Fukase 症候群( POEMS 症候群)
Crow-Fukase 症候群は感覚運動性多発ニューロパチーを基本とし,浮腫・胸腹水,剛毛・色素沈着・血管腫などの皮膚症状,骨硬化性病変,M 蛋白血症,肝脾腫などの臓器腫大,など全身症状を伴う疾患で,血清中血管内皮増殖因子(VEGF )の著明な高値を特徴とする.表 15-12-1に診断基準を示す.多発ニューロパチーは一見 CIDP に似るが,痛み,異常感覚などの感覚障害が高度であること,上肢に比較して下肢の筋力低下・筋萎縮が著しく高度であることなどが異なる.神経伝導検査では脱髄と軸索変性が混在した所見がみられる.自己末梢血造血幹細胞移植を伴う大量化学療法やサリドマイドなどが著効を示す.
c. MGUS-associated neuropathy
単クローン性高ガンマグロブリン血症は原因不明のニューロパチー患者の約10%に認められる.そのうち悪性疾患の合併が明らかでないものは,monoclonalgammopathy of undetermined significance(MGUS)とよばれており,しばしばCIDP類似のニューロパチーを合併する.MGUSの診断基準は【⇨表14-10-23】.MGUSでみられるM蛋白の70%はIgGであるが,ニューロパチーを合併する症例の約半数はIgMである.本症では末梢神経に対する自己抗体を有することが多く, 特にIgMに属する抗myelin-associated glycoprotein(MAG)抗体陽性のニューロパチーは,①緩徐進行性の感覚障害優位,遠位優位の多発神経炎で,②高齢者に多く,③異常知覚,痛み,振戦,感覚性失調などの特徴的な症状を伴い,難治性である.MGUSは年間約1.5%の率で多発性骨髄腫に移行するため,注意深い経過観察が必要である.[有村公良]
■文献
Kuwabara S, Dispenzieri A, et al: Treatment for POEMS (polyneuropathy, organomegaly, endocrinopathy, M-protein, and skin changes) syndrome. Cochrane Database Syst Rev, 2008 (4): CD006828.
International Myeloma Working Group: Criteria for the classification of monoclonal gammopathies, multiple myeloma and related disorders: a report of the International Myeloma Working Group. Br J Haematol, 121: 749-757,
2003.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報