多発性骨髄腫(読み)タハツセイコツズイシュ

デジタル大辞泉 「多発性骨髄腫」の意味・読み・例文・類語

たはつせい‐こつずいしゅ【多発性骨髄腫】

血液細胞の一つである形質細胞がん免疫グロブリンをつくる形質細胞が癌化すると、異常な抗体が大量に産生され、正常な抗体が著しく減少する。このため免疫機能が低下し、骨髄の造血機能が阻害される。一般に60歳以降の発症が多いとされる。主症状は骨の痛み・骨破壊・貧血・全身倦怠など。薬物療法のほか、造血幹細胞移植なども行われる。平成20年(2008)に治療薬としてサリドマイドの使用が承認された。

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共同通信ニュース用語解説 「多発性骨髄腫」の解説

多発性骨髄腫

血液細胞の一つである形質細胞ががん化して異常に増え、役に立たないタンパク質を大量に作るなどして発症するがんの一種。正常な血液細胞が減少するため、貧血によるだるさや息切れのほか、頭痛や肺炎、骨がもろくなるなどの症状が出る。白血球が減少して免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなったり、血小板が減って、出血の際、血が止まりにくくなったりする。中高年で発症し、男性にやや多い。治療は薬物療法を中心に放射線療法、血液細胞を作り出す造血幹細胞の移植などがある。

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EBM 正しい治療がわかる本 「多発性骨髄腫」の解説

多発性骨髄腫

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)は、白血球(はっけっきゅう)の一つである形質細胞(けいしつさいぼう)が、血液をつくる場所である骨のなか(骨髄(こつずい))で、異常なスピードで急激に増殖する血液の悪性の病気です。症状がなく、たんぱく尿、総たんぱく質に比べてアルブミンの値が低いといった検査データから、健康診断で発見されることがあります。腰痛、骨折、腎(じん)不全、貧血や感染の症状で発症することもあります。このため、患者さんの多くが最初に整形外科や腎臓内科を受診する病気でもあります。
 骨髄のなかで異常増殖した形質細胞が骨を壊し、腰、背中、肋骨など骨の痛みや骨折を引きおこします。痛みが強く歩行できなくなって、ベッドから起きることができなくなる患者さんもいます。溶けた骨からカルシウムが血液中にでるので、高カルシウム血症を引きおこし、意識状態が悪くなることがあります。
 異常増殖した形質細胞がつくる抗体であるたんぱくが急激に血中に増加し、尿にも排泄(はいせつ)されるため、尿たんぱく・腎不全がみられます。原因不明の腎不全として治療が行われた後に診断されることもあります。病状が進行すると、骨髄が異常な形質細胞だけでいっぱいになってしまうことから、ほかの血液細胞がつくれなくなります。このため、赤血球がたりない状態である貧血になったり、好中球(こうちゅうきゅう)やリンパ球がつくれないことにより白血球減少をきたし、感染に弱くなったりします。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 異常増殖し、がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)には、さまざまな遺伝子異常・染色体異常が生じていることが確認されています。ただし、なぜ、そうした異常が生じるかははっきりしていません。しかし、放射線の被曝や化学薬品(殺虫剤など)の影響、ダイオキシンの曝露(ばくろ)がかかわっているのではないかと考えられています。

●病気の特徴
 2010年の罹患者数は6,356人と推測されており、2013年の死亡者数は4,121人でした。男女はほぼ同数ですが、男性は70歳代が多いのに対し、女性は75歳以上の高齢者の多いことが特徴です。(1)
 2000年以降、治療効果のある分子標的薬免疫調整薬(サリドマイド関連薬)が導入されたことにより、根治は難しいものの生命予後が改善しています。高齢の患者さんが多いため、生命予後のみならず、治療を続けながら送る日常生活や社会生活の質を改善することも治療目標になってきています。(2)


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]治療目標を明確にし、治療法を検討する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 血液検査、尿検査、骨髄の検査、遺伝子検査、各種画像検査により診断がなされた場合、患者さんの年齢、腎機能や骨の状態と症状、骨髄腫細胞の特性(染色体異常などを含む悪性度)、病気の進行状態を考慮して、治療目標を明確にします。(3)~(6)
 無症状の場合、経過観察を行う方法と、染色体異常などの悪性細胞の性質によって病気の進行が速いと推測される場合に早期に治療を行う方法があります。ただし、どちらがよいのかについては議論が分かれています。(7)

[治療とケア]自家末梢血幹細胞移植療法(じかまっしょうけつかんさいぼういしょくりょうほう)を行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 60歳未満の患者さんで、早期の社会復帰をめざす場合は、自家末梢血幹細胞移植療法による予後の改善が報告されています。しかし、いつ骨髄移植を行うのがよいのかについては結論がでていません。
 自家末梢血幹細胞移植療法は、まず、化学療法で悪性細胞をおさえ込みます。その後、抗がん薬で一時的に骨髄における血球をつくる働きを抑制し、そこから正常の血球細胞が再び増殖を始めるときに、血液中に幹細胞と呼ばれるすべての血球に分化できる細胞がこぼれでてくるタイミングを見計らいます。このタイミングで、血液を一時的に体の外にだして、この幹細胞を集め、それ以外の血液を体に戻します。再度、体が耐えられるぎりぎりの量の抗がん薬や放射線を体に投与し、とっておいた患者さん自身の幹細胞を血液中に戻します。自分自身の幹細胞を利用することで、血球をつくれなくなるという副作用を克服し、通常では利用できない量の抗がん薬や放射線を使うことができます。副作用を考慮して放射線照射をしない方法もあります。これらにより、悪性細胞をより少なくすることが可能になります。(8)

[治療とケア]化学療法を行う
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 化学療法として、抗がん薬(メルファランや副腎皮質ステロイド薬など)、分子標的薬(注射薬:ボルテゾミブ)、免疫調整薬(サリドマイド関連薬の内服薬:サリドマイド、レナリドミド水和物)を、1剤もしくは組み合わせた治療があります。患者さんの年齢や状態、病気の進行度、悪性細胞の特性、および治療法によって、治療効果についての研究結果が公表されています。(10)~(14)
 化学療法では、出血しやすくなる、感染に弱くなる、間質性肺炎や下肢のしびれ、筋力低下等の末梢神経障害等、全身におよぶ副作用があるので血液内科専門医による厳重な管理が必要です。

[治療とケア]痛みの軽減や歩行機能の改善などを行う
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 高齢の患者さんでは、生命予後の改善だけでなく、痛みを軽減して歩行機能を改善させるなど、生活の質の向上が治療の目標になります。(9)

[治療とケア]放射線療法を併用する
[評価]☆☆☆☆
[評価のポイント] 骨の痛みの改善や、腫瘤病変(しゅりゅうびょうへん)による神経圧迫の解除、また、骨髄移植時の全照射として併用されます。また、孤立性形質細胞腫など、腫瘍がひとかたまりになっている場合に根治療法として用いられることもあります。(3)(4)


よく使われている薬をEBMでチェック

 患者さんの全身状態、骨髄腫細胞の特性、自家末梢血幹細胞移植療法を予定するか否かなどにより使用する薬剤を選択します。患者さんの状況および、各々の治療法によって、病気が進行しなかった期間と生命予後の改善状況の結果が公表されています。以下は、化学療法の一部です。病気がコントロールできた状態になっても、再発を抑えるため、治療を継続する必要があります。

MPB療法
[薬名]アルケラン(メルファラン)+プレドニン(プレドニゾロン)+ベルケイド(ボルテゾミブ)(10)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 自家末梢血幹細胞移植療法を行わない場合の初回治療として行います。ボルテゾミブを加えた場合、使用しない場合と比較して、予後が改善したと報告されています。

BD療法
[薬名]ベルケイド(ボルテゾミブ)+デカドロン(デキサメタゾン)(11)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 自家末梢血幹細胞移植療法を行う場合の初回治療として行います。抗がん薬のみの治療と比較して、病勢をおさえ込む率が高く、その期間もより長いことが報告されています。

LD療法
[薬名]レブラミド(レナリドミド水和物)+低量デカドロン(デキサメタゾン)(12)(13)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 移植の予定の有無にかかわらず、初回寛解導入および再発治療に用いられます。

MPLまたはMPT療法ほか
[薬名]アルケラン(メルファラン)+プレドニン(プレドニゾロン)+レブラミド(レナリドミド水和物)またはサレドカプセル(サリドマイド)(14)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 自家末梢血幹細胞移植療法を行わない場合の初回治療として行います。サリドマイドを追加した場合は、しなかった場合と比較して、予後の改善が報告されています。

維持療法薬
[薬名]レブラミド(レナリドミド水和物)(15)~(17)
[評価]☆☆☆☆☆
[薬名]サレドカプセル(サリドマイド)ほか (15)~(17)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 病勢がいったん安定した状態が得られた場合、その状態を維持する目的で行われる化学療法が維持療法です。

骨病変に対する治療薬
[薬名]ゾメタ(ゾレドロン酸水和物)(18)
[評価]☆☆☆☆
[薬名]ランマーク(デノスマブ)ほか(19)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 骨の病変に対して骨痛を改善します。ゾレドロン酸水和物については、生命予後の改善が報告されています。このため、化学療法と併用されます。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
各種検査で診断を行い、患者さんごとに治療目標を明確にする
 血液検査、尿検査、骨髄の検査、遺伝子検査、各種画像検査など詳細な検査を行い、多発性骨髄腫と診断されたなら、患者さんの年齢や全身状態、症状、骨髄腫細胞の特性などから、まず、患者さんごとに治療の目標を検討します。
 まだ症状がでていない患者さんに対してはすぐに治療を開始せず、経過をみる場合と、骨髄腫細胞の性格により進行が速いと予測されれば早期に治療を始める場合もあります。
 60歳未満の患者さんで、早期の社会復帰をめざす場合には、自家末梢血幹細胞移植療法の適応を考慮します。この治療法では、通常では利用できない量の抗がん薬や放射線を使うことができるため、より高い悪性細胞抑制効果が期待できます。

化学療法では、抗がん薬、分子標的薬、免疫調整薬等を組み合わせて行う
 自家末梢血幹細胞移植療法を行う場合もそうでない場合も、最初に行われるのは化学療法です。患者さんの全身状態などをはじめ、自家末梢血幹細胞移植療法を行うかどうかといったことを考慮し、抗がん薬(メルファランや副腎皮質ステロイド薬など)、分子標的薬(注射薬:ボルテゾミブ)、免疫調整薬(サリドマイド関連薬の内服薬:サリドマイド、レナリドミド水和物)を、1剤もしくは何剤かを組み合わせて治療を行います。

高齢の患者さんでは生活の質の向上が目標に
 高齢の患者さんでは、がん細胞の抑制だけでなく、痛みを緩和し歩行改善をめざすなど、生活の質の向上をめざす治療も欠かせません。そうした目的で、放射線療法が併用されることもあります。

(1)国立がん研究センターがん対策情報センター. 罹患データ (全国推計値). http://ganjoho.jp/professional/statistics/statistics.html#05 アクセス日2015年1月19日
(2)Kumar SK, Rajkumar SV, Dispenzieri A, et al.Improved survival in multiple myeloma and the impact of novel therapies. Blood. 2008;111:2516-2520.
(3)日本骨髄腫研究会. 多発性骨髄腫の診療指針, 第2版. 文光堂. 2008.
(4)日本血液学会. 造血器腫瘍診療ガイドライン2013年版. 金原出版. 2013.
(5)International Myeloma Foundation.ホームページ (欧米のガイドライン). http://myeloma.org/pdfs/CR2011-Eng_b1.pdf アクセス日2015年1月19日
(6)National Comprehensive Cancer Network. ホームページ(NCCN:全米がんセンターガイドライン策定組織)NCCNのガイドライン.MultipleMyeloma. 2015;Ver.2. http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/myeloma.pdf アクセス日2015年1月23日
(7)Agarwal A, Ghobrial IM.Monoclonal gammopathy of undetermined significance and smoldering multiple myeloma: a review of the current understanding of epidemiology, biology, risk stratification, and management of myeloma precursor disease. Clin Cancer Res. 2013;19:985-994.
(8)Barlogie B, Kyle RA, Anderson KC, et al.Standard chemotherapy compared with high-dose chemoradiotherapy for multiple myeloma: final results of phase III US Intergroup Trial S9321. ClinOncol. 2006;24:929-936.
(9)Palumbo A, Rajkumar SV, San Miguel JF, et al.International Myeloma Working Group consensus statement for the management, treatment, and supportive care of patients with myeloma not eligible for standard autologous stem-cell transplantation.J ClinOncol. 2014;32:587-600.
(10)San Miguel JF, Schlag R, Khuageva NK,et al.Persistent overall survival benefit and no increased risk of second malignancies with bortezomib-melphalan-prednisone versus melphalan-prednisone in patients with previously untreated multiple myeloma. J ClinOncol. 2013;31:448-455.
(11)Harousseau JL, Attal M, Avet-Loiseau H, et al.Bortezomib plus dexamethasone is superior to vincristine plus doxorubicin plus dexamethasone as induction treatment prior to autologous stem-cell transplantation in newly diagnosed multiple myeloma: results of the IFM 2005-01 phase III trial. J ClinOncol. 2010;28:4621-4629.
(12)Rajkumar SV, Jacobus S, Callander NS, et al; Eastern Cooperative Oncology Group.Lenalidomide plus high-dose dexamethasone versus lenalidomide plus low-dose dexamethasone as initial therapy for newly diagnosed multiple myeloma: an open-label randomised controlled trial. Lancet Oncol. 2010;11:29-37.
(13)Benboubker L, Dimopoulos MA, Dispenzieri A, et al; FIRST Trial Team.Lenalidomide and dexamethasone in transplant-ineligible patients with myeloma. N Engl J Med. 2014;371:906-917.
(14)Kapoor P, Rajkumar SV, Dispenzieri A, et al.Melphalan and prednisone versus melphalan, prednisone and thalidomide for elderly and/or transplant ineligible patients with multiple myeloma: a meta-analysis. Leukemia. 2011;25:689-696.
(15)Palumbo A, Hajek R, Delforge M, et al. Continuous lenalidomide treatment for newly diagnosed multiple myeloma. N Engl J Med. 2012;366:1759-1769.
(16)McCarthy PL, Owzar K, Hofmeister CC, et al. Lenalidomide after stem-cell transplantation for multiple myeloma. N Engl J Med. 2012;366:1770-1781.
(17)Attal M, Lauwers-Cances V, Marit G,et al. Lenalidomide maintenance after stem-cell transplantation for multiple myeloma. N Engl J Med. 2012;366:1782-1791.
(18)Mhaskar R, Redzepovic J, Wheatley K, et al.Bisphosphonates in multiple myeloma: a network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev. 2012;16CD003188.
(19)Henry DH, Costa L, Goldwasser F, et al.Randomized, double-blind study of denosumab versus zoledronic acid in the treatment of bone metastases in patients with advanced cancer (excluding breast and prostate cancer) or multiple myeloma. J ClinOncol. 2011;29:1125-1132.

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内科学 第10版 「多発性骨髄腫」の解説

多発性骨髄腫(血漿蛋白異常をきたす疾患)

(3)多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)
定義・概念
 骨髄において形質細胞が単クローン性に悪性増殖している疾患である.M蛋白血症をきたし,高カルシウム血症,腎機能低下,骨痛,骨折,感染症などの臓器障害を起こしやすい.病因は不明である.
疫学・発症率・統計的事項
 男性に多く,加齢とともに発症頻度が上昇する.
病態生理
 骨髄において単クローン性の形質細胞(骨髄腫細胞)が増加し,それらが産生するM蛋白が血中に増加する(図14-10-24).骨髄腫細胞は細胞接着因子を介して,骨髄ストローマおよびその細胞外マトリックスと接着することで増殖,生存,抗癌薬耐性をきたす.骨髄腫細胞と骨髄ストローマ細胞との相互作用は,両者の直接的接着およびインターロイキン-6(IL-6),インスリン様増殖因子1(IGF-1),血管内皮増殖因子(VEGF),ストローマ細胞由来因子(SDF)-1αなどのサイトカインの誘導による.骨髄腫細胞の増殖や抗癌薬耐性は,Raf,JAK,PI3-kなどの細胞内シグナルの活性化を介する.骨髄腫細胞は,破骨細胞活性化因子であるreceptor activator of nuclear factor-kappa B(RANKL)を産生し,破骨前駆細胞の破骨細胞への分化と破骨細胞の活性化を促進して,骨吸収をもたらす.骨髄腫細胞は,dickkopf1(DKK1)やsecreted Frizzled-related protein(sFRP)-2を分泌し,骨芽細胞の分化を抑制することによって骨病変の修復を遅延させ,破骨細胞の活性化とともに,骨髄腫における骨病変(溶骨性変化)を進展させる.
分類
 IMWG診断基準(表14-10-23)では,骨髄腫を下記の6つの病型に分類し,骨髄腫と鑑別すべき病態としてMGUSを定義した.
1)無症候性骨髄腫:
骨髄腫ではあるが,臓器障害(高カルシウム血症,腎機能低下,貧血,骨病変,過粘稠度症候群アミロイドーシス,年2回をこえる細菌感染)がない状態である.MGUSと同様に治療適応はないが,診断後,中央値23カ月間で症候性骨髄腫に進展するため,3カ月に1回くらいの定期検査が必要である.
2)症候性骨髄腫:
一般的に多発性骨髄腫とよばれる病型で,臓器障害が存在する.MGUS, 無症候性骨髄腫,孤立性骨形質細胞腫, 髄外性形質細胞腫から進展する骨髄腫もこの中に含まれる.治療(後述)の対象となる.
3)非分泌型骨髄腫:
骨髄腫のうちM蛋白を産生するが分泌しない症例.骨髄腫の約3%を占める.免疫固定法で血中および尿中にM蛋白を認めない.経過中にL鎖を検出しなければ,腎障害をきたさない.免疫抗体法などで検査すると,骨髄腫細胞内には免疫グロブリンを同定できる.症候性骨髄腫と同様の臨床像を呈するため,治療(後述)の対象となる.臓器障害があり,免疫グロブリン低値を示す症例では,本病型を疑って検査が必要である.予後は症候性骨髄腫と同様である.
4)孤立性骨形質細胞腫:
X線写真で骨に孤発性病変を認め,生検による病理組織学的検索で形質細胞腫と診断されるが,M蛋白,臓器障害および骨髄における形質細胞の増加を認めないもの.全形質細胞腫瘍の5%未満を占める.病変は脊椎が最も多い.治療は病変部位への放射線照射で,予後は症候性骨髄腫に比べて良好で10年生存率は40~50%である.3/4以上の症例が2~4年間の経過で症候性骨髄腫へ進展する.
5)髄外性形質細胞腫:
骨髄および骨以外の臓器に発症する形質細胞腫のことで,全形質細胞腫の約3%を占める.発生部位は,ほとんどが上気道であるが,消化管などにも発症する.確定診断は病理組織診断である.10年生存率は約70%で症候性骨髄腫と比べて良好であるが,径5 cm以上の腫瘤は症候性骨髄腫に進展しやすく予後不良である.
6)形質細胞白血病:
骨髄腫のうち末梢血中の形質細胞>2000/μLかつ末梢血白血球分画中の形質細胞比率≧20%の症例.発症時から形質細胞白血病(PCL)の病像を呈する原発性PCLと経過中に白血化した二次性PCLとに区分され,それぞれの頻度は60%と40%である.診断時にすでに骨髄外浸潤や臓器障害などが進行した状態であることが多い.治療(後述)は,標準的化学療法よりも大量化学療法が有効である.ボルテゾミブの有効性も報告されている.予後は症候性骨髄腫に比べて不良であり,生存期間中央値は7カ月程度である.
病因
 病因は不明である.第二次世界大戦における被爆者に発症頻度が高い.約1/3の症例には前癌状態としてMGUSが認められる.MGUSの形質細胞における染色体不安定性が染色体の数的異常や再構成を引き起こす原因となり,新たなクローンが出現する.p16遺伝子の不活性化,N-RAS/K-RAS遺伝子の突然変異などがMGUSから骨髄腫への進展を促進することが報告されている(Hanamuraら,2006).
臨床症状
 骨痛が最も頻度の高い(70%)自覚症状であり,なかでも背部痛・腰痛・肋骨部痛が多く,体動時に自覚することが多い.局所の持続する骨痛は病的骨折を反映する所見である.細菌に対して易感染性となり,肺炎や腎盂腎炎を発症しやすい.約25%の症例が腎不全を発症するが,その原因としては,増加したL鎖,高カルシウム血症,アミロイドの糸球体への沈着,高尿酸血症,繰り返す感染症,頻回のNSAIDsの使用,ヨード系造影剤の使用,ビスホスホネート製剤の投与などが知られている.進行例では,貧血による動悸や息切れも多い.過粘稠度症候群の症状(前述)は,IgM 4.0 g/dL,IgG 5.0 g/dL,IgA 7.0 g/dL以上に到達すると出現しやすい.高カルシウム血症により,うつ状態,混乱などの精神神経症状をきたすことがある.アミロイドが末梢神経に沈着すると手根管症候群やほかの末梢神経障害をきたすことがあるが,運動神経よりも感覚神経が優位に障害される.
検査成績
 M蛋白の種類により,IgG型,IgA型,IgD型,IgE型,IgL型(=Bence Jones蛋白(BJP)型)に分類されるが,BJP型以外では血清総蛋白が増加し,血清蛋白電気泳動でMスパイクを認める.BJP型では低ガンマグロブリン血症を認める.尿中にもIgを認め,尿蛋白電気泳動による分画検査でIgを検出する.血清と尿の免疫電気泳動および免疫固定法でM蛋白を検出する.
 末梢血液検査では,正球性正色素性貧血,赤血球の連銭形成(rouleaux formation),軽度の白血球減少,血小板減少を認めることが多い.形質細胞白血病では,末梢血中に形質細胞を多数認める.骨髄穿刺検査では,CD138で形態学的に異型性のある形質細胞を認める(図14-10-25).CD38とCD19との発現を検索すると,単クローン性の形質細胞はCD382+CD19であることが報告されている(Haradaら,1993).
 骨粗鬆症から骨融解病変までさまざまな骨病変を認めるが,骨X線写真では,骨梁の減少,骨融解像,打ち抜き像(punched out lesion)の所見を認める.
 赤沈は亢進し,CRPは軽度上昇することが多い.腎機能障害が出現しやすく,その場合は血清Ca値が上昇する.血清β2ミクログロブリン(β2M)の上昇は,骨髄腫細胞量と腎機能障害の両方の程度を反映し,骨髄腫の予後予測のための病期分類(international staging system(ISS))(表14-10-24)の指標として用いられる.
診断
 高ガンマグロブリン血症があり,血清中および尿中にM蛋白が認められれば骨髄腫を疑う.骨髄穿刺あるいは髄外腫瘤の生検で,形質細胞の単クローン性増殖を認めれば,骨髄腫と診断する.骨髄腫の診断には,IMWG診断基準(表14-10-23)が最もよく用いられる.形質細胞の単クローン性増殖を証明する方法としては,①IgH鎖遺伝子の再構成パターンをサザンブロット法あるいはPCR法で解析をする方法,②フローサイトメトリーなどを用いて細胞表面抗原を解析する方法(上述のようにCD382+CD19であれば,単クローン性増殖と判定する)の2つがある.骨髄腫と診断されると,臨床病期(ISS)(表14-10-24)を決定する.
治療・経過・予後
 無症候性骨髄腫の症例は,緩慢な経過をたどるため治療の適応ではないが,症候性骨髄腫へ進展する可能性があるため,注意深い観察が必要である.
 孤立性骨形質細胞腫と髄外性形質細胞腫に対しては,約40 Gyの局所放射線照射を行うと無病生存期間が延長する可能性がある.
 症候性骨髄腫では,骨髄腫の進行をコントロールする目的と合併症による死亡を防ぐ目的で治療を行う.新規の症候性骨髄腫症例に対する初回治療は,症例が自家造血幹細胞移植(AHSCT)を併用した大量化学療法(HDC)の適応か否かにより選択される(図14-10-26).65歳未満で重篤な合併症がなく,心肺機能が正常な症例では,AHSCT併用HDCの適応がある.なお,AHSCTの幹細胞源としては,末梢血幹細胞を用いることがほとんどである.
 AHSCT併用HDCの適応がある症例に対しては,造血幹細胞に対して毒性を有するメルファランなどのアルキル化剤の投与は避けるべきである.新規薬剤であるボルテゾミブと副腎皮質ホルモンとの併用投与(BD療法)が初回治療における標準療法である.BD療法を行うと,自家末梢血幹細胞の採取には悪影響を与えず,高い奏効率(>80%)が得られる.ビンクリスチン,ドキソルビシン,デキサメタゾン併用(VAD)療法もBD療法と同様に,高い奏効率(>80%)が得られ,造血幹細胞に対する毒性が低いことから,当該症例の自家末梢血幹細胞採取前の初期治療として行われることが多い.大量デキサメタゾン(HDD)療法も造血幹細胞に対する毒性が低いことから,当該症例の自家末梢血幹細胞採取前の初期治療として用いられる.これらの初回治療を数コース施行した後に,顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を単独投与あるいはシクロホスファミド投与後に投与して自家末梢血幹細胞を効率的に採取する.その後,大量メルファラン療法を併用した自家末梢血幹細胞移植を施行する.AHSCT併用HDCは,標準的化学療法と比較して完全奏効率が高く(25~40% vs <5%),無増悪生存期間と全生存期間が長いが,標準的化学療法と同様に,ほとんどの症例が治癒しない.
 一方,AHSCT併用HDCの適応がない症例に対しては,メルファラン,プレドニゾロン,ボルテゾミブ併用(MPB)療法が初回治療における標準療法であり,メルファラン,プレドニゾロンの併用療法(MP療法)と比較して奏効率(75% vs 35%)と3年生存率(72% vs 59%)が高くなる.当該症例に対するほかの初回治療法としては,シクロホスファミドとプレドニゾロンの併用療法(CP療法),VAD療法,HDD療法,BD療法がある.なお,BD療法はほかの治療法と比べて腎障害を速やかに改善させる可能性が報告されている.
 治療が奏効した症例では,速やかに骨痛,高カルシウム血症,貧血が改善し,感染症に罹患し難くなる.M蛋白の減少は,これらの症状の改善よりも遅れて出現する.完全奏効に至らなくても,臨床的な奏効は長期間続くことが多い. どのような地固め・維持療法が全生存期間の延長につながるかは十分に明らかにされていないため,さまざまな臨床試験が行われている.
 再発・再燃した場合は,AHSCT併用HDC適応症例では,初回治療で1年間以上の奏効期間が得られた症例は2回目のAHSCT併用HDCを行い,ほかの症例ではレナリドミドやボルテゾミブなどの新規薬剤を用いて救援療法を行う.これらの新規薬剤をデキサメタゾンと併用して投与すると,再発症例の60%が部分奏効し,10~15%が完全奏効する.一方,AHSCT併用HDC非適応症例では,初期治療で6カ月間以上の奏効期間が得られた症例は効果が認められた初期治療を行い,ほかの症例ではレナリドミドやボルテゾミブなどの新規薬剤を用いて救援療法を行う. 救済療法を行った後に進行・増悪した場合は,研究的治療あるいは緩和医療を行う.
 骨髄腫症例の生存期間中央値は7~8年間であるが,若年症例では10年間以上生存することがある.おもな死因は骨髄腫の進行,腎不全,敗血症,治療関連骨髄異形成症候群である.
 合併症に対する支持療法も抗腫瘍療法と同様に重要である.高カルシウム血症は,ビスホスホネート,副腎皮質ステロイド,水分負荷とナトリウム利尿で治療する.急性腎不全に対しては,腹膜透析よりも血漿交換の方が効果がすぐれている.過粘稠度症候群に対しては,血漿交換を行う.肺炎球菌ワクチンの効果はない.繰り返す重症感染症に対する予防的Ig製剤の投与は有効である.下肢の神経症状,重度の局所痛,膀胱直腸障害が出現した場合は,緊急MRIを撮影し,形質細胞腫による脊髄圧迫部位に対して放射線照射を行う.痛みの強い骨病変に対して,局所放射線照射が有効である.[松永卓也]
■文献
Hanamura I, et al: Frequent gain of chromosome band 1q21 in plasma-cell dyscrasias detected by fluorescence in situ hybridization: incidence increases from MGUS to relapsed myeloma and is related to prognosis and disease progression following tandem stem-cell transplantation. Blood, 108: 1724-1732, 2006.
Harada H, et al: Phenotypic difference of normal plasma cells from mature myeloma cells. Blood, 81: 2658-2663, 1993.
Malpas JS, Bergsagel DE, et al: Myeloma, pp1-581, Oxford University Press, Oxford, 1995.

多発性骨髄腫(造血幹細胞移植の適応の考え方)

(9)多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)
a.予後予測因子
 1975年に発表されたDurie and Salmon分類が長く用いられてきたが,多数例のデータに基づく予後予測モデルでは客観的指標であるβ2MとAlbの組み合わせによって強力な予後予測分類が可能になることが示された.
b.初発症例に対する造血幹細胞移植の適応
 自家移植と化学療法のRCTのメタ解析では無憎悪生存率は改善するものの,全生存率については有意な改善は認められなかった.すなわち自家移植の主要な目的は無憎悪生存率の延長によるQOLの改善ということになる.しかし,ボルテゾミブ,サリドマイド,レナリドミドの併用によって自家移植後の予後も改善している.
c.多発性骨髄腫に対する同種移植
 多発性骨髄腫に対する同種移植の移植関連死亡率は30~40%と高く,自家移植の後にミニ移植を行う臨床試験が実施されている.しかし,現時点では多発性骨髄腫に対する初期治療における同種移植の位置づけは明らかになっていない.進行期における同種移植は移植関連死亡率が高いだけでなく,根治が得られる可能性もほとんどない.[神田善伸]
■文献
Koreth J, Schlenk R, et al: Allogeneic stem cell transplantation for acute myeloid leukemia in first complete remission: systematic review and meta-analysis of prospective clinical trials. JAMA, 301: 2349-2361, 2009.
Cutler CS, Lee SJ, et al: A decision analysis of allogeneic bone marrow transplantation for the myelodysplastic syndromes: delayed transplantation for low-risk myelodysplasia is associated with improved outcome. Blood, 104: 579-585, 2004.
Oliansky DM, Czuczman M, et al: The role of cytotoxic therapy with hematopoietic stem cell transplantation in the treatment of diffuse large B cell lymphoma: update of the 2001 evidence-based review. Biol Blood Marrow Transplant, 17: 20-47 e30, 2011.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「多発性骨髄腫」の解説

多発性骨髄腫
たはつせいこつずいしゅ
Multiple myeloma
(血液・造血器の病気)

どんな病気か

 単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)をつくる形質細胞が腫瘍性に増え、これに伴い貧血や感染症、腎障害、骨病変などが引き起こされる病気です。この腫瘍細胞は免疫グロブリン(IgG、IgA、IgD、IgE)、またはベンス・ジョーンズ蛋白(κ(カッパ)またはλ(ラムダ))のうち、通常1種類の蛋白を異常につくり出してきます。

原因は何か

 原因はまだ不明で、悪性リンパ腫と同様に高齢者、とくに70歳以上に好発します。年間発症数は人口10万人あたり約2人で、全造血器腫瘍(ぞうけつきしゅよう)の約10%を占めます。全死亡原因に占める割合は年々増加し、2001年には人口10万人あたり2.7人です。

症状の現れ方

 発病は、多くの症例ではいつから始まったかはっきりせず、ゆっくりと進行します。何の症状もなく、定期健診を受けたところ血液および尿の蛋白の異常(M蛋白)を指摘され、これがきっかけでこの病気が見つかることもあります。

 自覚症状としては胸や背中、腰などの痛み、体重減少などがあります。骨折して受診し、この病気が発見されることもあります。骨はほとんど全身の骨が侵されますが、脊椎(せきつい)、肋骨、胸骨などから現れる場合が多いようです。腎臓が侵されることも多く、むくみや全身倦怠感(けんたいかん)といった慢性腎不全の症状で発症することがあります。

検査と診断

 血液中の蛋白の数値が高く、分析すると免疫グロブリンといわれる蛋白の一種が異常に高い数値を示すことから診断されます。骨髄(こつずい)検査を行うと、この異常蛋白を分泌する形質細胞が多数認められます。骨のX線検査では、打ち抜き像といわれる輪郭の明確な所見があり、骨が薄くもろくなっています。これが前述したような骨折の原因にもなります。

 病期分類を表16に示します。

治療の方法

 多発性骨髄腫の診断確定後、治療が必要な症例かどうかを検討します。無症状の症例(病期Ⅰの大部分)では、治療を行わずに厳重な経過観察だけを行います。

 病期ⅡまたはⅢ、明らかな骨病変の存在、M蛋白血症に関連した臓器障害、検査値異常を有する場合、またM蛋白が進行性に増加する場合が治療の対象となります。

●65歳以下の治療対象となる患者さん

 入院のうえ、造血幹細胞(ぞうけつかんさいぼう)移植を前提とした治療を行います(高度の腎機能障害、心アミロイドーシス合併例は、適応を慎重に決定する)。通常、初回治療としてVAD療法(オンコビン、アドリアシン、デカドロン)を行います。

●66歳以上の患者さん

 原則としてMP療法(アルケランおよびプレドニン)を行いますが、一般状態が良好である場合、造血幹細胞移植を前提とした治療を検討することもあります。

 移植以外の治療法を選択した場合、プラトーフェイズ(M蛋白値などが安定して増加してこない状態)への到達が、治療の第一目標となります。

自家(じか)造血幹細胞移植

 現在、多発性骨髄腫(とくに65歳以下)の標準的治療法と位置づけられ、生存期間の延長が証明されています。自家造血幹細胞移植には骨髄移植(BMT)と末梢血幹細胞移植(PBSCT)の2つの方法がありますが、PBSCTのほうが感染症や出血などの合併症が少なく、早期に退院が可能であることから一般的になっています。

●サリドマイド

 サリドマイドが自家造血幹細胞移植後の再発時に有効であることが知られていますが、日本でも2009年から保険適応となりました。

●ボルテゾミブ

 難治性や再発骨髄腫に対しては、プロテアゾーム阻害薬のボルテゾミブが有効と考えられています。なお日本人に投与した場合、重篤な肺障害の報告があるため、初回投与は入院が必要です。その他、末梢神経障害や帯状疱疹(たいじょうほうしん)の合併に注意が必要です。

病気に気づいたらどうする

 多発性骨髄腫は一般に経過が長い病気ですが、骨痛や貧血などで日常生活に支障を来したり、感染症にかかりやすくなったり、時には腎機能が悪くなって透析(とうせき)を行わざるを得なくなるなど、さまざまな合併症を来します。これに対し、患者さん自身が担当医と相談のうえ、病気の状態を十分理解し、病気とつきあっていくことが重要です。

 腎障害の進展を予防するため、十分な水分摂取を心がけることも重要ですし、白血球減少がない時期においても感染症にかかりやすいので、うがいの励行がすすめられます。



多発性骨髄腫
たはつせいこつずいしゅ
Multiple myeloma
(お年寄りの病気)

病気のあらまし

 多発性骨髄腫は、骨髄中の形質細胞というリンパ球が腫瘍化した病気で、単に骨髄腫ということもあります。

 腫瘍化した形質細胞を骨髄腫細胞と呼びます。形質細胞は抗体(免疫グロブリン)を産生する細胞ですが、多発性骨髄腫になると異常な抗体(M蛋白)が産生され、正常な抗体はむしろ低下するために免疫力は低下します。おもに50歳以上の中高齢者に発症する病気です。

症状と診断

 多発性骨髄腫の症状は、骨の痛み、病的骨折・圧迫骨折、倦怠感(けんたいかん)、貧血、出血傾向、感染症に対する抵抗力の低下などです(表14)。このうち、最も一般的な症状は、背中や腰の痛み、貧血による倦怠感です。しかし、初期には症状が乏しく、定期健診で偶然に診断されることもあります。

 骨の痛みと貧血がある時には、多発性骨髄腫の可能性を常に念頭におくことが重要です。背中や腰の痛みを訴えることが多いため、はじめに整形外科を受診することがしばしばですが、診断と治療はおもに血液疾患専門内科医が行います。

 多発性骨髄腫が疑われる時には、血液検査(貧血や異常免疫グロブリンの有無、腎機能、カルシウム値など)、尿検査(尿に排出される異常蛋白の有無)、X線検査(骨の異常や骨折の有無)のほかに、骨髄中の骨髄腫細胞の増殖を調べる目的で骨髄穿刺(せんし)を行います。

治療とケアのポイント

 一般に、多発性骨髄腫は緩やかに進行する病気で、進行程度によって病期を3つに分類します。

 Ⅰ期は、骨髄腫細胞やM蛋白が認められるものの軽度であり、貧血や骨の病変が認められない場合です。通常、治療は行わず、定期的な血液検査で経過を観察します。

 Ⅱ期、Ⅲ期は、M蛋白値が高値で、貧血、骨病変、血中カルシウム高値などが認められる場合です。多発性骨髄腫においては、早期治療開始が必ずしも長期的な予後改善に結びつかないことがわかっており、通常Ⅱ期、Ⅲ期から治療が行われます。

●治療

 主な治療法には、化学療法(抗がん薬による治療)と放射線療法があります。

 多発性骨髄腫は化学療法(薬物療法)で効果が現れる疾患ですが、残念ながら確実に治癒を期待できる治療法は確立されていません。

 放射線療法は、骨髄腫細胞が腫瘤(しゅりゅう)を形成した場合や疼痛緩和の目的で行われるので、照射部位は局所的です。60~65歳以下の比較的若い患者さんには、大量化学療法後に造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼういしょく)を行うことがありますが、高齢者に対してはこのような強力な化学療法は行えません。

 高齢者の骨髄腫に対する一般的な化学療法は、メルファランとプレドニゾロンを4日間定期的に投与するMP療法ですが、もう少し強力なVAD療法という治療を行う場合もあります。また、デキサメタゾンというステロイド薬を大量に投与する治療法もあります。

 最近は、治療抵抗性の場合に、ボルテゾミブ(ベルケイド)やサリドマイドなどの分子標的薬も使用されるようになりました。また、骨病変の改善にはビスホスフォネートという薬剤が用いられます。

●ケア

 症状が安定していれば、日常生活に特別の制約はありません。むしろ、過度の安静は骨病変の進行につながるので、高度の骨病変がないかぎり、適度な運動を取り入れた生活を送ることが必要です。

 ただし、打撲・転倒などによる骨折にはくれぐれも注意を払う必要があります。また、中腰の姿勢を伴う作業や急に姿勢を変換することなどは、圧迫骨折や病的骨折の原因となるので極力避けることが望まれます。

 多発性骨髄腫では、正常免疫グロブリンの産生低下や化学療法の結果、しばしば免疫不全状態に陥ります。つまり、細菌やウイルスに対する抵抗力が低下するので、発熱、(せき)、痰などがある場合には、できるだけ早く主治医の診察を受け、適切な治療を行うことが大切です。

 また、腎障害は予後を左右する危険な合併症です。脱水状態は腎障害を悪化させるので、何らかの理由で水分制限をする必要がある場合以外には、普段から水分を十分に摂取するように心がけることも大切です。

安川 正貴


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「多発性骨髄腫」の解説

たはつせいこつずいしゅ【多発性骨髄腫 Multiple Myeloma】

[どんな病気か]
 からだの健康を守っている免疫(めんえき)の一翼をになう抗体(こうたい)はたんぱく質でできていて、免疫グロブリンと呼ばれています。
 免疫グロブリンは、骨髄(こつずい)に存在する形質細胞(けいしつさいぼう)でつくられますが、この形質細胞ががん化して骨髄腫細胞(こつずいしゅさいぼう)と呼ばれる異常な細胞となり、無制限に増殖する病気です。形質細胞のはたらきが低下する一方、正常な血液をつくる骨髄のはたらきも障害されます。
[症状]
 50歳以上になってからの発症が多く、腰や背中の痛み、骨の痛みのほか、からだのだるさ、息切れ、動悸(どうき)、顔色が悪いなどの貧血(ひんけつ)の症状が現われ、出血しやすくなります。感染に対する抵抗力も低下して、肺炎などにかかりやすくなります。
 骨髄腫細胞には、骨を溶かしてしまう因子が含まれているために、いろいろな骨が破壊され、わずかな外力が加わっても骨折(病的骨折(びょうてきこっせつ))をおこしやすく、骨折でこの病気が発見されることもあります。視力障害、めまい、頭痛などがおこることもあります。
 頻度の低い病気のために、医師の治療を受けていてもこの病気と気づかれないことがありますから、疑わしい症状が続くときは、血液専門の医師を紹介してもらいましょう。
[検査と診断]
 血液を採取して調べると、血沈(けっちん)(赤沈(せきちん))(「赤沈(赤血球沈降速度/血沈)」)が非常に亢進(こうしん)しているほかに、貧血、白血球(はっけっきゅう)や血小板(けっしょうばん)の減少がみられることがあります。
 たんぱく尿が出ていることも多く、尿検査がきっかけで、この病気が発見されることもあります。
 骨のX線撮影で「打ち抜き像」と呼ばれる骨の破壊像が見られることや、血清たんぱく中に、異常な免疫グロブリン(免疫グロブリン‐Mたんぱく)の増加がみられることで診断できます。
 免疫グロブリン‐Mたんぱくの血中濃度が高くなると、血液の粘りけ(粘稠度(ねんちゅうど))が高まり、血液の循環障害がおこり、眼底の異常、中枢神経や末梢神経(まっしょうしんけい)の異常、心不全(しんふぜん)、腎臓(じんぞう)障害などの症状が現われます(過粘稠度症候群(かねんちゅうどしょうこうぐん))。
[治療]
 化学(薬物)療法では、メルファランやシクロホスファミドなどの抗がん剤と副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモンのプレドニゾロンとの長期併用が効果をあげています。また、サリドマイド(保険適用外)も効果があります。
 補助療法として、痛みが激しいときは、鎮痛薬(ちんつうやく)を用いますが、ときに、放射線を照射することもあります。また、腰痛にはコルセットを装着することもあります。
 最近、根本的な治療法として、骨髄移植(こつずいいしょく)にかわって、造血幹細胞移植(ぞうけつかんさいぼういしょく)が期待されています。これには、造血幹細胞を自分の血液から分離し移植する自己末梢血幹細胞移植(じこまっしょうけつかんさいぼういしょく)(保険適応)や、造血幹細胞が豊富な赤ちゃんの臍帯血(さいたいけつ)を利用する臍帯血移植(さいたいけついしょく)などがあります。
 治療が効果をあげているときは、ふつうに生活してもかまいません。多少、骨の痛みがあっても、適度にからだを動かすことや、水分を多くとって尿量を増やすことが、合併症を防ぐためにたいせつです。

出典 小学館家庭医学館について 情報

四訂版 病院で受ける検査がわかる本 「多発性骨髄腫」の解説

多発性骨髄腫

 Bリンパ球から分化した形質細胞(大部分は骨髄こつずいにある)ががん化し、異常な免疫グロブリンをつくり出すものです。生体が正常な場合は、細菌やウイルスに対し、生体はさまざまな免疫グロブリンをつくって防御していますが、骨髄腫がおこると単一のグロブリン(特定のクローン)しかつくられなくなります。あちこちの骨髄に同時多発的に発生するため、多発性と呼ばれています。

●おもな症状

 骨の痛み(腰や背中)、全身倦怠けんたい感、動悸・息切れなどの貧血症状、出血しやすい、免疫力の低下から感染しやすくなるなど。早期ではそれほど症状はないのが普通。進行した場合の特徴として、骨が溶けやすくなるためにちょっとしたことで骨折しやすくなります(病的骨折)。

①血液検査(蛋白分画、Mピーク、免疫電気泳動)

  ▼

②尿検査(異常蛋白の検出)

  ▼

③骨X線単純撮影/CT/MR

  ▼

④骨髄穿刺(病理診断)

血清蛋白分画が指標。病的骨折からの発見も

 病的骨折などの症状が出ている場合では、骨の単純X線で「抜き打ち像」と呼ばれる黒く抜けた所見(骨が溶けているため)がみられることがあります。これから骨髄腫が発見されることもあります。

 通常、とくに最近では検診での血液検査で発見されることが多く、血清蛋白分画(→参照)でのM蛋白の増加が指標となります。M蛋白は、種類によっては尿中に多量に排泄されるものもあるので、尿検査(→参照)も行われます。さらに、免疫電気泳動をはじめとする検査で、異常免疫グロブリンの検出が行われます。

 骨髄に針を刺して、骨髄液(細胞)を採取(骨髄穿刺せんし)し、病理検査をして確定診断します。

出典 法研「四訂版 病院で受ける検査がわかる本」四訂版 病院で受ける検査がわかる本について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「多発性骨髄腫」の意味・わかりやすい解説

多発性骨髄腫
たはつせいこつずいしゅ
multiple myeloma

形質細胞が腫瘍性に増殖して多発する疾患。骨梁を破壊し,体動時に胸,腰,背に強い疼痛を訴える。 40~60歳代の男子に好発する。椎骨,頭蓋骨,肋骨,胸骨,骨盤などにできやすい。患者には血漿蛋白の全量,ことにグロブリン分画が増加し,尿にベンス・ジョーンズ蛋白体 (BJP) が排泄される。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「多発性骨髄腫」の意味・わかりやすい解説

多発性骨髄腫
たはつせいこつずいしゅ

骨髄腫

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の多発性骨髄腫の言及

【骨髄腫】より

…免疫グロブリンを産生・分泌する形質細胞が腫瘍性に増殖する悪性腫瘍。主として骨髄で増殖し,各所の骨が侵されることが多いので,多発性骨髄腫multiple myelomaとも呼ばれ,単クローン性免疫グロブリン(Mタンパク)の出現,骨病変などを特徴とする。腫瘍化した形質細胞(骨髄腫細胞)は骨髄で主として結節状に増殖し,次第に骨皮質を融解・破壊して骨折(病適骨折)を起こす。…

※「多発性骨髄腫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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