血管腫(読み)けっかんしゅ(英語表記)hemangioma

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

血管腫
けっかんしゅ
hemangioma

あざ。血管組織の増殖および拡張による病変で,本来の意味の腫瘍ではなく奇形の一種。良性のものをいう。以下のものが含まれる。 (1) 単純性血管腫 ポートワイン母斑。非隆起性,境界鮮明な赤色局面で,成長につれて大きくなるものと,次第に消えていくものがある。 (2) 苺状血管腫 イチゴを切半して皮面に置いたような外観を呈する腫瘍。生後1~2週以内に生じて次第に増大し,6ヵ月頃から消失の傾向がみられはじめ,5~6歳頃までにほぼ完全に自然治癒する。 (3) 海綿状血管腫 柔軟な皮内あるいは皮下腫瘍。生下時すでに存在し,通常,自然治癒はしない。以上の3タイプが全血管腫の 90%を占める。 (4) カサバッハ=メリット症候群 血小板減少性血管腫。表面平滑,暗赤色の巨大な血管腫内に出血が起って,紫斑形成を起し死亡することもある症候群。 (5) 異型血管腫。 (6) 血管芽細胞腫 生後発生する斑状,非隆起性の血管腫。 (7) 被角血管腫 角化小血管腫。手指などに重症凍瘡治癒後に生じることが多い。また,老化現象として陰嚢に生じることもある。 (8) グロームス腫瘍 小動静脈吻合部のグロームス細胞の増殖を認め,一種の過誤腫とみなされている。単発型と多発型がある。 (9) オスラー病。 (10) くも状血管腫 放射状の血管拡張で,中心部は軽度に隆起することがある。上胸部,前頸部,肩などに好発。肝硬変患者によくみられる。 (11) 老人性血管腫 血管の拡張による,表面平滑な赤色の丘疹性小皮疹。高齢者の躯幹に散発あるいは多発する。 (12) ボトリオミコーゼ 血管拡張性肉芽腫。

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百科事典マイペディアの解説

血管腫【けっかんしゅ】

血管組織からなる腫瘍(しゅよう)様の組織奇形。最も多いものは単純性血管腫で,毛細血管あるいは細い静脈からなる血管腫である。顔面頸部(けいぶ)の皮膚に好発し,いわゆる赤あざとなる。治療は冷凍療法,レーザー光線療法,切除,放射線治療など。
→関連項目液体窒素療法放射線治療母斑

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大辞林 第三版の解説

けっかんしゅ【血管腫】

血管系の組織が局所的に増殖した腫瘍しゆよう。単純性血管腫・いちご状血管腫・海綿状血管腫・老人性血管腫などがある。俗に赤あざという。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

血管腫
けっかんしゅ

俗に赤あざとよばれる血管系の組織の異常で、血管の拡張を主体とするものと、血管壁を構成する細胞の腫瘍(しゅよう)性増殖を主体とするものの2種類に大別される。前者の代表は単純性血管腫、後者の代表はイチゴ状血管腫で、治療を必要としない老人性血管腫を除くと、両者で血管腫全体の約90%を占めている。そのほかにも多種多様の臨床、組織像を示すものが知られている。[水谷ひろみ]

単純性血管腫

皮膚面から盛り上がっていない赤色または赤紫色の母斑(ぼはん)(あざ)で、ちょうどぶどう酒を流したような外観を呈するところから、ポートワイン・ステインportwine stainともよばれている。生まれつき(生来性)のあざで、一生を通じてほとんど変化しないか、または多少色調が濃くなる程度のものが多いが、顔面や頭部に生じたものは成長するにしたがって肥厚し、大小のいぼのようなもの(結節性隆起)ができてくることもある。組織学的にはすべて真皮内毛細血管の拡張と増加で、真の腫瘍性増殖ではない。治療は、従来は形成手術が主として行われてきたが、近年レーザー光線による治療が試みられ、症例によってはよい成績が得られている。放射線は無効であるにもかかわらず、その過剰照射による後遺症例が後を絶たないので注意する必要がある。
 なお、単純性血管腫の特殊型としてサーモン・パッチsalmon patchとよばれるものがある。これは乳児の眉間(みけん)、上眼瞼(がんけん)(上まぶた)内側、額正中部、項部(襟首)などにみられる淡紅色のあざで、大部分が2歳ごろまでに自然治癒する。このほか、単純性血管腫を主症状とする母斑症に、スタージ‐ウェーバーSturge-Weber症候群、色素血管母斑症、クリッペル‐ウェーバーKlippel-Weber症候群などがある。[水谷ひろみ]

イチゴ状血管腫

表面が鮮紅色でぶつぶつしていてイチゴに似るところからこの名称があるが、わが国では古くから海綿状血管腫とよばれている。組織学的には、血管壁を構成する内被細胞の腫瘍性増殖よりなる。生後まもなく蒼白(そうはく)の貧血斑または小紅点を生じ、急速に大きくなって盛り上がり、一塊となって3週間から3か月以内に典型的な鮮紅色の柔軟な腫瘤(しゅりゅう)となる。その後一定期間の静止期を経てだんだん小さくなり自然治癒していくという特有の生活史を有する。その時間の遅速は血管腫の病型や大きさ、発生部位により異なるが、概して局面型のものは早く(4~5歳まで)、腫瘤型のものは遅い。とくに巨大型は10歳過ぎまで膨らみや皮膚のたるみが残りやすい。したがって治療はこれらの自然経過を考慮にいれて、症例ごとに、放置して観察するか早期に積極的に加療するかを決めなければならない。一般的には、積極的に加療するのは、(1)生命維持に必要な器官が障害をきたす場合、とくに視力保持、哺乳(ほにゅう)、鼻呼吸などの困難時、(2)整容的に大きな問題を残すと予想される巨大な病巣、(3)出血、潰瘍(かいよう)形成などを繰り返すものなどである。
 治療としては副腎(ふくじん)皮質ホルモンの内服、放射線療法、持続圧迫療法などがあげられるが、いずれも経験豊かな医師が慎重に行い、けっして過剰治療にならないよう注意することがたいせつである。
 なお、イチゴ状血管腫に類似した巨大血管腫にカサバッハ‐メリットKasabach-Merritt症候群がある。これは血小板減少症を伴い、全身に紫斑を生ずるもので放置すれば全身の毛細血管に血栓を生じて生命を脅かすおそれがある(播種(はしゅ)性血管内凝固異常、略称DIC)。この場合は速やかに専門医による治療を受けなければならない。[水谷ひろみ]

老人性血管腫

主として中年以後にみられるが、名称に反して思春期ころからも発生し、70歳では75%以上の人にみられる。直径1~1.5ミリメートル程度のドーム形鮮紅色の丘疹(きゅうしん)で、エンドウ豆大になることもある。整容上の問題以外では無害で、治療の必要はない。[水谷ひろみ]
『池田重雄・水谷ひろみ著『形成外科手術手技シリーズ あざの治療』(1981・克誠堂出版)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

けっかん‐しゅ ケックヮン‥【血管腫】

〘名〙 毛細血管の病気。かたまった血管が赤色あるいは赤紫色に、皮膚を通して見えるもの。痛みもかゆみもない。生まれつきあるものと、生後一週間めごろから現われるものとがある。

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内科学 第10版の解説

血管腫(肝原発性良性腫瘍)

(1)血管腫(hemangioma,angioma)
定義
 良性非上皮性腫瘍の代表的なもので,肝良性腫瘍の80%以上を占める,この腫瘍は一般に単発性であるが,10%程度は多発性にみられる.血液を充満させた海綿状の血管腔は線維性結合組織を伴う内皮細胞により取り囲まれ,毛細血管様のネットワークを形成し,腫瘤結節として肝臓内に存在する.肉眼的には境界鮮明な暗赤色腫瘤で割面は円形,蜂巣状の血管腔を示す.肝血管腫は大多数は無症状で超音波検査により偶然に発見されることが多い.しばしば悪性腫瘍との鑑別が問題となる.巨大例では,肝の腫大,または肝の一部が隆起し,腫瘤として触知され,ときに腫瘍内血栓形成に,フィブリノーゲン,血小板が消費され,また赤血球が破壊される,いわゆるDIC(播種性血管内凝固症)をきたすことがある.Kasabach-Merritt症候群とよばれている.
分類
 組織学的には海綿状血管腫と毛細血管腫に分けられる.
原因・病因
 理論的には肝臓を構成する肝類洞内皮細胞,あるいは肝動脈,門脈,肝静脈などの血管内細胞が発生起源と考えられる.
疫学
 欧米では剖検のうち約0.25~5%に肝血管腫がみられるとの報告がある.ほかの報告では0.4~20%といわれている.わが国における頻度はまったく不明で,最近の超音波検査などの普及によりその存在診断が容易となったため,血管腫の頻度は増加傾向にある.
病理
 その大きさは数mmから20 cm以上の大きさまでに及ぶことがあり,10 cm以上の血管腫は巨大血管腫と呼称されている.肉眼所見としては,肝表面に認められるものが赤紫色から青色を呈し,柔らかい性状を呈するが,石灰化や硬化性の血管腫は硬度があり,割面は灰色色を呈する.一般的には割面はスポンジ様で,液状ならびに凝血成分が充満している.
 組織学的には,海綿状血管腫と毛細血管腫に分けられ,多くは海綿状血管腫である.したがって,厳密には血管腫は臨床診断名で,同義語とされている海綿状血管腫は組織学的名称となる.血液成分が充満した腔は,異型性と増殖性に乏しい1層の内皮細胞により形成されている.腔と腔との間の結合組織は,粘液腫様の変化を示し,さらに大きな結合組織状隔壁には,石灰化や線維化とともに異常動脈や動静脈シャントの形成が観察されることもある.
臨床症状
1)自覚症状:
血管腫の大きさにより異なるが,おおむね5%以下の症例に症状が認められ,それらは肝外性に発育した症例が多いとされている.妊娠中に増大傾向を示し,さらにホルモンを産生する例や大型の場合,血管腫内での大きな血栓形成(Kasabach-Merritt症候群)による血小板減少症も報告されている.
2)他覚所見:
大型血管腫の場合は,表面より触知することがある.
検査所見
 肝機能検査値を含む血清学的検査はほとんど正常範囲内であり,巨大血管腫でも検査結果で異常を認める症例はまれである.Kasabach-Merritt症候群を呈した症例では血小板低値やDICの所見を呈する. 超音波検査では,周囲肝実質との境界は不鮮明で,形状は不定形であり,境界に細かい凹凸を認める.辺縁に低エコー帯を認めず,後方エコーは時に増強する.また,プローブによって腫瘍を圧迫すると,内部エコーパターンが変化することがある(カメレオンサイン).超音波所見上次の3つのパターンがある.①高エコーパターン: 最も多いパターンで腫瘤全体が高エコーを示し,大きさは1~5 cmの範囲にある.②辺縁高エコーパターン: 2~3 cm未満の小腫瘍にみられることが多く,腫瘤の辺縁に高エコー帯をもつ.内部は周囲肝実質エコーに比べて低エコーあるいは等エコーを示す.③混合エコーパターン: 腫瘍径5 cm以上の比較的大きな腫瘍にみられるパターンで,高エコーと低エコーが不規則に混在し,多彩な超音波像を呈する. CTでは,造影前は低濃度域として描出されるが,大きな病変では,内部により低濃度域を伴う.造影CTでは,早期に腫瘍辺縁より点~斑状の強い濃染部が出現し,中心部に向けて徐々に濃染部は拡大し,血栓部あるいは壊死部を除き腫瘍全体が高濃度域となる.この濃染部は数分以上の長時間にわたる.3 cm以上の腫瘤では大多数が上記のような特徴所見を示す.
 MRIでは,腫瘍内にとどまる大量の血液が自由水として作用するため,T1強調像で低信号,T2強調像できわめて強い高信号を示す.検出能のみならず確定診断能も高く,小病変においても診断能は高い. 造影超音波でも,造影CTと同様の所見がみられる. 肝動脈造影では,腫様内部の血流は緩徐な場合が多く,動脈相の中期に出現し,徐々に広がりながら互いに融合する点状~斑状の濃染の集合として描出されることが多い.この濃染はcotton wool appearance(綿花様)などともよばれている.
診断
 典型的な超音波像,および造影超音波像,造影CTや造影MRI像で辺縁から徐々に染まりこむ所見,あるいは血管造影でcotton wool appearanceを呈する造影剤のプーリングが診断の決め手とされる.
 現在では,非侵襲的MRIの検査と造影超音波検査が,血管腫の確定診断にもっとも有用と考えられている.また,赤血球や血漿蛋白をラジオアイソトープで標識した血液(赤血球)プールシンチグラフィは,時間的経過を追うことにより血管腫の診断に特異性が高い検査法として評価されているが,小型血管腫の場合は感度が低い.
鑑別診断
 病理学的には,悪性腫瘍の肝悪性血管内皮細胞腫(malignant hemangioendothlioma,血管肉腫;angiosarcoma)との鑑別が問題となる. 臨床的には,画像診断を中心に鑑別診断を考えるならば,脂肪化の著明な肝細胞癌,転移性肝癌,血管筋脂肪腫が重要で,特に前者は基礎疾患として慢性肝疾患の有無が重要である.
治療
 多くは通常,無症状のまま経過し,治療は不要である.しかし,巨大例,圧迫症状などの有症状例経過観察中に増大傾向の認められる場合には切除術の対象となる.本症に対する特別な予防法はない.[工藤正俊]
■文献
Kojiro M, Wanless IR, et al: The International Consensus Group for Hepatocellular Neoplasia:Pathologic diagnosis of early hepatocellular carcinoma: a report of the international consensus group for hepatocellular neoplasia. Hepatology, 49: 658-664, 2009.
Makuuchi M, Kokudo N, et al: Development of evidence-based clinical guidelines for the diagnosis and treatment of hepatocellular carcinoma in Japan. Hepatol Res, 38: 37-51, 2008.
Kudo M, Izumi N, et al: Management of hepatocellular carcinoma in Japan: Consensus-Based Clinical Practice Guidelines proposed by the Japan Society of Hepatology (JSH) 2010 updated version. Digest Dis, 29: 339-364, 2011.

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世界大百科事典内の血管腫の言及

【あざ(痣)】より


【母斑】
 母斑は,皮膚を構成する表皮細胞,色素細胞,血管,脂腺細胞などの要素が局所的にたまたま増加したもので,血管性母斑,色素細胞系母斑,表皮母斑,脂腺母斑などがある。
[血管性母斑hemangioma]
 血管腫とも呼ばれる。俗に〈赤あざ〉と呼ばれる単純性血管腫hemangioma simplex∥portwine stainは,扁平で盛上がりのない鮮紅色ないし淡紅色の斑で,境界ははっきりとしており,色は濃いものからうすいものまでさまざまである。…

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