出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
現在、日本で慣習的に血管腫と呼んでいるものは、性質の異なる2つの疾患群に分けられます。ひとつは、イチゴ状血管腫のように血管を構成する細胞の増殖を本体とする病変であり、真の意味の血管腫です。
もうひとつは、赤ぶどう酒様血管腫のように細胞の増殖を伴わない血管の構造上の異常で、血管奇形と呼ぶべきものです。後者は基本的には生まれつきみられ、その後大きな変化はありません。
イチゴ状血管腫は、胎児期の発達段階にある血管を構成する細胞が何らかの原因で残り、出生後、母親から受けていた増殖抑制因子が欠乏して増殖するのではないかという考えがあります。
赤ぶどう酒様血管腫などの細胞の増殖を伴わない血管腫は、発生段階における血管の形成異常であり、腫瘍というよりはむしろ
イチゴ状血管腫は、出生時にはわずかに赤いか無症状で、生後数週で急速に隆起し、増大します。表面はいちごのように鮮紅色を示す場合が多いのですが、色調には変化がないこともあります。また、その名のとおり表面がこぶ状に隆起するものは3割程度で、6割近くは軽度に隆起するだけです(図80)。
赤ぶどう酒様血管腫は生まれつきある隆起しない赤い
眼の周囲に赤あざがみられる場合には、
赤あざに類似した皮疹は、新生児の額や
通常は見た目と経過から診断します。スタージ・ウェーバー病やクリッペル・ウェーバー病が疑われる場合には画像検査などが必要になります。
イチゴ状血管腫は自然に消えていくので、とくに合併症の危険がない大部分のものは、無治療で経過をみて差し支えありません。ただし、まぶたに生じ、眼をふさいでしまうようになったものや気道をふさぐものなどは、早急な治療が必要です。
即効的な治療として、
単に色調だけを、自然経過よりも早期に淡くしたい場合には色素レーザー治療を行います。この治療は副作用が少ないのですが、こぶを小さくする効果は期待できません。
赤ぶどう酒様血管腫に対しては色素レーザー治療が第一選択です。効果の程度は病変の深さによって違いますが、ほとんどの赤あざに対して効果があります。
顔面のサーモンパッチは自然に消えていく場合が多いので、治療せずに経過をみます。ウンナ母斑は髪に隠れて目立たないので、ほとんど治療しません。
これらの血管腫を、早期に的確に診断することは必ずしも簡単ではありません。皮膚科専門医を受診して、診断を確定するとともに治療法についても相談してください。
田村 敦志
顕微鏡で調べてみると、血管に似ている異常な形態の細胞が増殖していることが観察される良性の病気をまとめて、血管腫といいます。
「血管腫」という言葉は、非常に広い範囲の病態を含んでいます。たとえば、皮膚を中心に発生するもの(イチゴ状血管腫、サクランボ色血管腫など)、筋肉のなかに発生するもの(筋肉内血管腫)、肝臓に発生するもの(肝血管腫)など、発生する場所だけでも多くの種類があり、それぞれ多彩な症状を示します。
ここでは、整形外科で扱う機会が多い、筋肉のなかなど皮膚より深い部分に発生する血管腫についてのみ、述べます。皮膚や肝臓に発生する血管腫に関しては、それぞれ関連領域の解説を参考にしてください。
筋肉内の血管腫は、軟部腫瘍のなかでは比較的よくみられる病気です。90%以上が思春期から若年層の成人に見つかります。発生率に男女差はないようです。できやすい場所はふとももなどの下肢で、ついで首のまわりや頭などの頭頸部、上肢、体幹部(胸や腹部など体の中心部の軟部組織)などです。
現在でもいくつかの学説が提唱されていますが、腫瘍(新生物)というよりは正常の組織が何らかの理由で異常に増殖した状態(
多くは、比較的軟らかく、ゆっくりと成長する
X線検査ではこぶの内部にある石灰が写ることがあります。MRIなどによって詳しい画像検査を行うと、霜降り状の瘤が写ります(図54(a))。
以上の臨床的な情報と画像的情報から、ある程度、血管腫であると推測することができますが、厳密な確定診断(病名を決定すること)には、できものの一部を体から取り出して顕微鏡で見ることが必要です。
比較的小さなものは経過観察を行うことだけで十分です。サイズが大きい場合などは、悪性腫瘍との鑑別が大切であり、全部取り切らないまでも瘤の一部を切り取って顕微鏡で調べることがあります。
ひとたび血管腫という確定診断がついた場合でも、痛みなどの症状がない場合は経過をみるだけでよいことが大半です。痛みがある場合、まず鎮痛薬で痛みを和らげることを試みます。
患者さんの日常生活の邪魔になるなどの場合、切除を考えます。血管腫は血管のかたまりで(図54(b))、手術での出血が時に大変多くなり、患者さんが術後貧血になることがあるため、手術適応は慎重に行います。
まず、近所の整形外科医に相談してみてください。体に発生した瘤は、通常の診察だけでは病名の決定ができません。肉腫など悪性疾患との区別が必要と判断されれば、前述したように実際に組織を採取して顕微鏡で確認する必要があります。この場合、整形外科分野の腫瘍を専門とする医師のいる施設(地域のがんセンターや大学病院)に紹介してもらいましょう。
森井 健司
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
俗に赤あざとよばれる血管系の組織の異常で、血管の拡張を主体とするものと、血管壁を構成する細胞の腫瘍(しゅよう)性増殖を主体とするものの2種類に大別される。前者の代表は単純性血管腫、後者の代表はイチゴ状血管腫で、治療を必要としない老人性血管腫を除くと、両者で血管腫全体の約90%を占めている。そのほかにも多種多様の臨床、組織像を示すものが知られている。
[水谷ひろみ]
皮膚面から盛り上がっていない赤色または赤紫色の母斑(ぼはん)(あざ)で、ちょうどぶどう酒を流したような外観を呈するところから、ポートワイン・ステインportwine stainともよばれている。生まれつき(生来性)のあざで、一生を通じてほとんど変化しないか、または多少色調が濃くなる程度のものが多いが、顔面や頭部に生じたものは成長するにしたがって肥厚し、大小のいぼのようなもの(結節性隆起)ができてくることもある。組織学的にはすべて真皮内毛細血管の拡張と増加で、真の腫瘍性増殖ではない。治療は、従来は形成手術が主として行われてきたが、近年レーザー光線による治療が試みられ、症例によってはよい成績が得られている。放射線は無効であるにもかかわらず、その過剰照射による後遺症例が後を絶たないので注意する必要がある。
なお、単純性血管腫の特殊型としてサーモン・パッチsalmon patchとよばれるものがある。これは乳児の眉間(みけん)、上眼瞼(がんけん)(上まぶた)内側、額正中部、項部(襟首)などにみられる淡紅色のあざで、大部分が2歳ごろまでに自然治癒する。このほか、単純性血管腫を主症状とする母斑症に、スタージ‐ウェーバーSturge-Weber症候群、色素血管母斑症、クリッペル‐ウェーバーKlippel-Weber症候群などがある。
[水谷ひろみ]
表面が鮮紅色でぶつぶつしていてイチゴに似るところからこの名称があるが、わが国では古くから海綿状血管腫とよばれている。組織学的には、血管壁を構成する内被細胞の腫瘍性増殖よりなる。生後まもなく蒼白(そうはく)の貧血斑または小紅点を生じ、急速に大きくなって盛り上がり、一塊となって3週間から3か月以内に典型的な鮮紅色の柔軟な腫瘤(しゅりゅう)となる。その後一定期間の静止期を経てだんだん小さくなり自然治癒していくという特有の生活史を有する。その時間の遅速は血管腫の病型や大きさ、発生部位により異なるが、概して局面型のものは早く(4~5歳まで)、腫瘤型のものは遅い。とくに巨大型は10歳過ぎまで膨らみや皮膚のたるみが残りやすい。したがって治療はこれらの自然経過を考慮にいれて、症例ごとに、放置して観察するか早期に積極的に加療するかを決めなければならない。一般的には、積極的に加療するのは、(1)生命維持に必要な器官が障害をきたす場合、とくに視力保持、哺乳(ほにゅう)、鼻呼吸などの困難時、(2)整容的に大きな問題を残すと予想される巨大な病巣、(3)出血、潰瘍(かいよう)形成などを繰り返すものなどである。
治療としては副腎(ふくじん)皮質ホルモンの内服、放射線療法、持続圧迫療法などがあげられるが、いずれも経験豊かな医師が慎重に行い、けっして過剰治療にならないよう注意することがたいせつである。
なお、イチゴ状血管腫に類似した巨大血管腫にカサバッハ‐メリットKasabach-Merritt症候群がある。これは血小板減少症を伴い、全身に紫斑を生ずるもので放置すれば全身の毛細血管に血栓を生じて生命を脅かすおそれがある(播種(はしゅ)性血管内凝固異常、略称DIC)。この場合は速やかに専門医による治療を受けなければならない。
[水谷ひろみ]
主として中年以後にみられるが、名称に反して思春期ころからも発生し、70歳では75%以上の人にみられる。直径1~1.5ミリメートル程度のドーム形鮮紅色の丘疹(きゅうしん)で、エンドウ豆大になることもある。整容上の問題以外では無害で、治療の必要はない。
[水谷ひろみ]
『池田重雄・水谷ひろみ著『形成外科手術手技シリーズ あざの治療』(1981・克誠堂出版)』
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【母斑】
母斑は,皮膚を構成する表皮細胞,色素細胞,血管,脂腺細胞などの要素が局所的にたまたま増加したもので,血管性母斑,色素細胞系母斑,表皮母斑,脂腺母斑などがある。
[血管性母斑hemangioma]
血管腫とも呼ばれる。俗に〈赤あざ〉と呼ばれる単純性血管腫hemangioma simplex∥portwine stainは,扁平で盛上がりのない鮮紅色ないし淡紅色の斑で,境界ははっきりとしており,色は濃いものからうすいものまでさまざまである。…
※「血管腫」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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