多重発生(読み)たじゅうはっせい(その他表記)multiple production

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「多重発生」の意味・わかりやすい解説

多重発生
たじゅうはっせい
multiple production

高エネルギーの核子や中間子など強い相互作用をする粒子間の衝突によって,一時に多数の素粒子を発生する過程。初めエネルギー数十億 eV以上の宇宙線と原子核との衝突で多数の中間子の放出が発見され,これが原子核中の核子と衝突するごとに 1個の中間子を発生するという複合発生の考えもあったが,高圧水素入りの霧箱の観測陽子と陽子との衝突の素過程で多重発生が起こることが確認された。したがって入射粒子と原子核の端との衝突では 1回の多重発生,原子核の中心部との衝突では多数の核子との間に多重発生を起こし,複合多重発生となる。放出される中間子は入射粒子の進行方向に集中し,ジェットとして観測される。多重度 (発生粒子の数) は入射エネルギーとともにゆるやかに増す。発生粒子は大部分π中間子で,平均して 2/3が荷電中間子,1/3が中性中間子であり,K中間子も少し含まれる。発生粒子の横向き (入射粒子の方向に対して) 運動量の平均値は 2億eVで,入射エネルギーに依存せず,ほぼ一定である。機構としては衝突する 2粒子が制動放射のように中間子を振り落とすという考えもあるが,2個の火の玉を発生し,火の玉が多数の中間子に崩壊するという火の玉模型が有力である。また質量一定の火の玉を多数個発生するという説も主張されている。横向き運動量一定の法則が約 1014eV以上の衝突では成立せず,徐々に増大を示すという結果や,さらに高エネルギーでは,さらに大きい火の玉が発生するとの説もある。多重発生の研究は超高エネルギー素粒子反応の中心的な課題である。

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