大動脈狭窄症

内科学 第10版 「大動脈狭窄症」の解説

大動脈狭窄症(先天性心疾患)

分類
 先天性大動脈狭窄は狭窄部位により,弁狭窄(valvular AS:vAS),弁下狭窄(subvalvular AS:SAS),弁上狭窄(supravalvular AS:SVAS)に分類される.
疫学・病因
 真の罹病率は不明である.ASのうちvASが60~75%,SASが10~20%を占め,SVASが最も少ない.いずれも男性に優位にみられる.遺伝学的病因として,vASはTurner症候群に認められ,SVASの30~50%は7番染色体上のエラスチン遺伝子の発現異常であるWilliams-Beuren症候群に合併する.またvASは胎生期に左室流入血流減少をきたす卵円孔早期閉鎖が,SASは流出路中隔の後方偏位を伴う心室中隔欠損や,長い左室流出路をもつ房室中隔欠損などが解剖学的病因となる.
病理
 vASで最もよくみられるのは大動脈二尖弁で,まれに粘液様変性や大動脈単尖弁などもみられる.高齢者にみられる石灰化は小児期にはまれである.重症例では左室後負荷増大に起因する左室肥大や心内膜弾性線維化,乳頭筋虚血などがみられる.
病態
 左室流出路狭窄による左室後負荷の増大をきたす.肥大した左室心筋の酸素需要と供給(冠血流)のアンバランスの結果左室心内膜下虚血を生じ,左室収縮性低下,左室容積が増大し心不全に至る.
臨床症状
 新生児期~乳児期早期に末梢循環不全,呼吸困難症状などの心不全症状を呈する重症AS(critical AS: cAS)を除き,小児期には無症状のことが多い.ときに易疲労感,運動時呼吸困難,狭心痛失神などがみられる.
診断
 vASやSVASでは胸骨右縁上方を,SASでは胸骨左縁中央を最強点とする収縮期駆出性心雑音を聴取する.早期収縮期駆出クリックと胸骨上窩thrillはvASを強く示唆する.重症例では心電図上左室肥大所見を認める.心臓超音波検査は病変部位の解剖学的形態や狭窄の重症度の評価に最も有用な検査方法である.瞬時左室大動脈最大圧較差(peak instantaneous pressure gradient:PIPG)や弁口面積から狭窄の定量化ができる.左室大動脈圧較差は血行動態に左右され,高心拍出時には大きく,異常な低心拍出時には低下する.心臓カテーテル検査,心血管造影はASの診断や重症度評価のゴールドスタンダードであったが,近年は非侵襲的検査で十分な情報が得られない場合や経カテーテル的治療の目的で行われる.
管理・治療
 重症度に応じ運動を制限する.有意狭窄や大動脈弁閉鎖不全を伴わない大動脈二尖弁を含め,感染性心内膜炎の予防が必要である. 中等度狭窄(心臓超音波検査上PIPG 50 mmHg以上,弁口面積0.5~0.8 cm2/m2)で治療を考慮,高度狭窄(同70~75 mmHg以上,0.5 cm2/m2以下)は絶対的治療適応である.vASに対しては経カテーテル的バルーン大動脈弁形成術(balloon aortic valvuloplasty:BAV)が行われる.治療効果はあるが,再狭窄や弁閉鎖不全をきたしうる.BAV無効例や高度弁閉鎖不全合併例に対して,また初回治療として外科的に弁形成術や弁置換術(人工弁,生体弁など)が行われる.乳幼児例では自己肺動脈弁を自家移植したRoss術が行われることもある.SAS,SVASではバルーン拡大術の効果は限られる.SASでは閉塞の原因となる筋組織や膜様構造物を外科的に除去する.大動脈弁輪の小さい例では(Ross-)Konno術が,また乳頭筋異常挿入など僧帽弁異常があれば僧帽弁に対する治療介入が行われる.SVASではDoty術,Brom術などが行われる.冠動脈狭窄があれば狭窄解除やバイパス術が同時に行われる.cASではプロスタグランジン製剤を使用し動脈管を開存させ,カテコールアミンなどの抗心不全治療を行い,早期に外科的あるいは経カテーテル的治療が行われる.左室容積や大動脈弁輪径,心内膜弾性線維化の有無などにより最終目標を二心室修復とするかFontan手術候補とするかを総合的に判断する.[安田謙二・山田 修]
■文献
Allen HD, Driscoll DJ, et al: Moss and Adams’ Heart Disease in Infant, Children and Adolescents: Including the Fetus and Young Adult, 7th ed, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, 2008.
Anderson RH, Baker EJ, et al: Paediatric Cardiology, 3rd ed, Churchill Livingstone, Philadelphia, 2009.
Campbell M: The natural history of congenital aortic stenosis. Br Heart J, 30: 514-526,1968.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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