日本大百科全書(ニッポニカ) 「天狗松」の意味・わかりやすい解説
天狗松
てんぐまつ
天狗が住んでいるとか、天狗が腰掛けたなどの伝承をもつ松。またその伝説。「天狗の腰掛け松」ともいう。石川県河北郡の天狗松は、梢(こずえ)に天狗が住んでいるといい、村に行方不明者が出ると、この松の下にきて名を呼び、天狗に返還を求めた。京都府亀岡市の桑田神社にある天狗松は、天狗が通行人を抱えて樹上に連れ去ったと言い伝え、下を通る人はさらわれないように気をつけたという。この種の伝説は広く全国に分布しており、枝ぶりに共通点がある。目にたつ大木であり、枝が広がっているのが特色である。神霊が樹木を目印にして村里に降臨することを基盤とし、その神霊が妖怪(ようかい)化して天狗となったため、恐怖の話題ばかりが強調されたのである。
[井之口章次]