改訂新版 世界大百科事典 「妖精物語」の意味・わかりやすい解説
妖精物語 (ようせいものがたり)
conte de fées[フランス]
狭義では妖精の登場する超自然的な物語を,広義では概して子ども向けの,空想と不可思議にみちた文学作品(ドイツ語の〈メルヘン〉や日本語の〈おとぎばなし〉に近い)を指す。古くはヨーロッパ諸民族の神話や伝説,また《千夜一夜物語》のような伝奇にもその先駆があるが,中世以来,独自の口承文学のジャンルとして発展し,しだいに文章化されるようになる。とくに17世紀末フランスの宮廷やサロンで,特定の作家による再話や創作が流行しはじめ,それらが各国にひろまり,近代児童文学の成立に大きな影響を及ぼす。狭義の妖精物語として知られる初期の代表作はオーノア夫人によるもの(1697-98)で,《金髪姫》《青い鳥》などがあるが,同時期のC.ペローによる《眠れる森の美女》《サンドリヨン》などの〈物語集〉(1697)のほうが広く読まれ,18世紀における妖精物語の嚆矢となる。ルプランス・ド・ボーモン夫人の《美女と野獣》などがこの伝統をうけついだが,19世紀になるとドイツのグリム兄弟らロマン派の作家たちによる組織的な再話の試みがなされ,セギュール夫人らの創作妖精物語の試みもあらわれる。イギリスにもJ.ジェーコブズ(1854-1916)らによる妖精物語復興の動きがあり,以後,現代の創作童話,ファンタジー文学,SF文学などにうけつがれる。
→童話 →メルヘン
執筆者:巌谷 國士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報