日本大百科全書(ニッポニカ) 「寄生菌」の意味・わかりやすい解説
寄生菌
きせいきん
生体分解に関与する菌、すなわち病原菌をいう。菌類は生態系において還元者、つまり有機物を分解して無機物に還元するという役割を担う。分解の対象が死物の場合には死物寄生、または腐生といい、腐敗現象を伴う。分解の対象が生活体の場合には活物寄生、または狭義の寄生といい、病気という現象をおこす。これを物質循環の角度からみれば、前者は死体分解、後者は生体分解となる。寄生菌は寄生細菌と寄生真菌(カビとキノコ)に大別される。宿主としては、細菌は動物に、真菌は植物に寄生することが多い。
植物寄生菌は寄生性(栄養のとり方、宿主体への侵害性)によって次の3群に分けられる。第1群の寄生菌は、病原菌としてはきわめて弱いもので、宿主がなんらかの原因で著しく衰弱しているか、あるいは傷や死組織ができた場合に初めて侵入することができる。これに対して第2群の寄生菌は、宿主の生活細胞を積極的に攻撃し、その生活力を奪って侵略する。したがって病原菌としては強力で、このような菌を殺生(さっせい)菌という学者もある。イネのいもち病菌、各種炭疽(たんそ)病菌など第2群の病原菌は多く、農林作物に大きな被害をもたらす。しかし、第1、第2群とも宿主体上での栄養生活は死物寄生的で、宿主が生活体であっても、栄養は生活力を失った細胞組織から摂取する。両群の違いは、病原菌の足場となる死組織を寄生菌が積極的につくるか否かにある。
第3群の寄生菌は、宿主の生活細胞に侵入するが、宿主細胞を殺さず、生活細胞から栄養をとるものである。したがって、もし宿主細胞が菌の攻撃に敗れて死ぬと、菌も栄養を絶たれて生活を続けることができなくなる。このような菌を絶対的活物寄生菌といい、さび病菌類、うどんこ病菌、露菌(ろきん)病(べと病)菌などがこれを代表する。
[今関六也]