攻撃(読み)こうげき(英語表記)aggression

翻訳|aggression

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

攻撃
こうげき
aggression

敵意をもった行為で相手に恐れや逃避を生じさせ,多くの場合闘争を惹起すること。また攻撃は自己嫌悪自己批判,自殺などの形で自己に向けられることもある。アメリカ南部の人種対立の研究を行なった心理学者 J.ダラードらによれば,すべての攻撃はフラストレーションに基づくとされ,S.フロイトによれば死の本能の現れとされる。

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デジタル大辞泉の解説

こう‐げき【攻撃】

[名](スル)
進んで敵を攻め撃つこと。「総勢を挙げて攻撃する」「奇襲攻撃
議論などで、相手を責めなじること。非難すること。「団交で攻撃の的になる」「個人攻撃
スポーツの試合などで、相手を攻めること。「九回裏の攻撃」⇔守備

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大辞林 第三版の解説

こうげき【攻撃】

( 名 ) スル
戦争やスポーツの試合などで、相手を攻めること。 ⇔ 守備 「敵軍の背後を-する」
相手を強く非難すること。 「失政を-する」

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精選版 日本国語大辞典の解説

こう‐げき【攻撃】

〘名〙
① 向かって行って敵を撃つこと。敵を打ち破るため、進んで戦闘を求めること。⇔守備。〔書言字考節用集(1717)〕
※日本開化小史(1877‐82)〈田口卯吉〉一「各寺相ひ嫉みて攻撃せし事もあり」 〔史記‐南越玉尉佗〕
② ことばで人を責めなじること。相手の欠点をとがめだてすること。非難すること。
※やみ夜(1895)〈樋口一葉〉九「世の攻撃(コウゲキ)に居場処のなき其やうの恥は」 〔韓非子‐喩老〕
③ 試合、競技などで、相手を攻めること。⇔守備
※日本野球史(1929)〈国民新聞社運動部〉帰朝第一戦早軍大敗す「早軍の守備攻撃(コウゲキ)更に振はざるに反し」
④ 漢方医学の治療法の一つ。病人の気力を養う補剤に対して、病気を攻撃する攻剤によって治療する方法。攻劇。
※談義本・世間万病回春(1771)三「昨日書物で見た事も今日は口へならべたてて攻撃の峻補(しゅんぽ)のと」

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最新 心理学事典の解説

こうげき
攻撃
aggression

攻撃性aggressivenessともいう。認知面としての敵意hostility,感情面としての怒りanger,行動面としての攻撃行動aggressive behaviorの3側面から理解できる。湯川進太郎によれば,攻撃行動とは,格闘技や医師による手術などとは異なり,攻撃されることを予期していない相手に,肉体的・精神的な打撃を与えようとする意図をもってなされるものである。つまり,攻撃は,当該の行為の背景に意図が想定されて初めて成立する行動といえる。

 攻撃行動の形態は多様であるが,その代表的な分類に,反応的攻撃reactive aggressionと能動的攻撃proactive aggressionがある。反応的攻撃とは,外界からの不快な刺激に対して生じる怒りを伴う攻撃であり,能動的攻撃とは道具的攻撃instrumental aggressionとも称され,外的な報酬(金銭,地位など)を得たり,なんらかの負の事態(他人から不愉快な扱いを受けるなど)を取り除いたりするための手段として行なわれるものを指す。なお,能動的攻撃には,関係性攻撃relational aggressionも含まれる。これは,叩く,蹴るといった顕在性攻撃overt aggressionとは異なり,仲間関係の操作を通じて他者を傷つける行動であり,幼児や児童では男子よりも女子において顕著に見られる。

【本能論と動因論】 攻撃に関する古典的な理論には,次のようなものがある。

1.本能論instinct theory 攻撃が生得的に備わった本能や衝動によってもたらされるとみなす古典的な理論の総称である。精神分析学psychoanalysisを創始したフロイトFreud,S.によると,人間には死の欲動death drive,すなわちタナトスThanatos(死の本能)があらかじめ備わっているという。死の本能は自己破壊に向かう心的エネルギーであり,その一部が外界へと向きを変えて攻撃という形を通じて発現される。つまり,攻撃は死の本能の派生物という位置づけである。また,クラインKlein,M.は,攻撃をもたらす根源的な衝動として,幼児のねたみenvyに着目した。彼女によると,ねたみとは他者が何か望ましいものをわが物として楽しんでいることに対する怒りの感情であり,その起源は,幼児に生きる糧を与えてくれる乳房に対するものにまでさかのぼることができるという。一方,ローレンツLorenz,K.は,比較行動学ethologyの立場から,本能の役割を説いた。攻撃とは進化を通じて淘汰されたものであり,種の保存と維持に寄与する正常な機能として,相手に攻撃を加えるだけではなく,自身の損傷を最小限に抑える機能も有する。すなわち,直接的な攻撃を実行することなく威嚇により勝敗を決したり,敗北を示唆するような行動を通じて,相手からの過剰な攻撃行動を抑止する機構である。ただし,人間は,武器のような道具を考案して発展させたために,本能的な抑制機構がうまく働かなくなり,攻撃が無制限に行なわれる危険性をはらんでいる。そのため,これを抑制するために,禁忌や戒律といった社会的制約が存在するとみなされる。

2.動因論drive theory 本能の代わりに動因driveという概念を用いて攻撃行動を説明する理論で,ダラードDollard,J.,バーコウィッツBerkowitz,L.などによる。ダラード(1939)らの欲求不満-攻撃仮説frustration-aggression hypothesis は,フロイトの影響が色濃く反映されたもので,目標達成のために行動していたことが阻害されると欲求不満が生じ,それを低減ないし終結させようという動因に基づいて攻撃が実行されるという。ただし,攻撃は欲求不満をもたらした直接の対象に最も強く向けられるものの,対象そのものが置き換えられたり,ユーモアや嘲笑という形を取る場合もある。一方,バーコウィッツとルパージュLepage,A.(1967)は,欲求不満によってもたらされる怒りだけではなく,攻撃を誘発する手がかりの存在も,攻撃の開始や促進を決定づける要因として重要であることを示した。これがいわゆる武器効果weapon effectであり,実験手続きなどの面で批判を浴びたが,さまざまな研究に関するメタ分析を通じて,攻撃を誘発する要因が存在する状況では,実際の攻撃が発生しやすいことも確認されている。

【怒りと認知】 攻撃に及ぼす怒りの影響は多大であるが,必ずしも欲求不満をもたらした相手に対する怒りにかられて攻撃するばかりではない。ジルマンZillman,D.(1979)の興奮転移理論excitation transfer theoryは,怒りが興奮(生理的覚醒)とそれを引き起こした先行事象のラベル付け(認知)の二つの要因から決定されることを前提とした理論である。同じ状況に遭遇したとしても,先行事象をどのようにとらえるかにより,怒りが喚起されるか否かが決まる。そして,生理的覚醒をもたらした状況とは異なる挑発状況や嫌悪刺激に直面した際に,先行する生理的覚醒が状況の解釈に転移して怒りが増強されるという。バンデューラBandura,A.(1973)の社会的学習理論social-learning theoryでは,攻撃行動の習得に際して,直接的な対人関係における学習だけではなく,観察学習observational learningにおける過程を重視する。つまり,観察の対象となるモデルが受ける強化(代理強化vicarious reinforcement)を通じて,攻撃行動が習得されるという立場を取るものであり,攻撃が認知的な制御を経て開始されることが首尾よく説明される。攻撃における詳細な認知過程に言及したモデルとして,クリックCrick,N,R.とダッジDodge,K.A.(1996)による社会的情報処理social information processingがある。攻撃行動が選択され社会的な情報を処理してなんらかの行動を実行するまでの間に,⑴誘発因の符号化→ ⑵その解釈→ ⑶目的の明確化→ ⑷反応の検索・構成→ ⑸反応の決定→ ⑹実行という6段階が仮定されており,これらの段階のいずれか一つにでもバイアスや欠損が生じると不適応的な行動が生じるとする。なかでも,攻撃に関連が深いとされているのが,第2段階「誘発因の解釈」の偏りである。この偏りは敵意帰属バイアスhostile attribution biasともよばれ,自分がなんらかの被害を受けたときに加害者の意図が悪意によるものとみなす傾向を指す。これは加害を挑発によるという解釈をもたらすために怒りの喚起を促し,報復的な攻撃を誘発する。

 さらに,従来の理論で扱われてきた認知や感情などの諸要素を組み込んだモデルも提案されている。大渕憲一の二過程モデルでは,葛藤状況におかれた場合に,2種類の処理を通じて攻撃行動が選択されることが仮定されている。一つ目は,不快な感情によって連想的・反射的に生み出される衝動的な経路,もう一つは,制御的な処理を経ての目標志向的な経路である。また,アンダーソンAnderson,C.A.とブッシュマンBushman,B.J.(2002)は,最終的に決定される攻撃行動を衝動的行為と熟慮的行為に分けた攻撃の一般モデルgeneral aggression modelを提唱している。このモデルでは,⑴入力→ ⑵経路→ ⑶結果という3段階が想定されている。「入力」では個人要因(パーソナリティや性別)と状況要因(欲求不満や手がかり)が考慮され,続く「経路」では,感情・認知・覚醒が相互に影響を与え合い,評価に基づいて最終的な「結果」として攻撃の実行がもたらされる。 →社会的学習
〔澤田 匡人〕

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