三重県尾鷲市の港を中心にして歌われてきた民謡。もともと漁師たちの歌っていた舟唄(ふなうた)だったが、幕末に尾鷲の港町で歌われた流行(はやり)唄の『何故(なしょ)まま節』が唄の支柱になっている。これが、2月上旬に行われる尾鷲神社の祭礼での神輿(みこし)の道中に笛や太鼓で歌われるようになってから、古い道中唄『こちゃえ節』を取り入れ、さらに新しい歌詞もつくられ、1917年(大正6)レコードの吹込み以後『尾鷲節』とよばれるようになった。この民謡の特徴は、本唄が終わってから転調し「中村山のお灯明(とみょ)あげ 国市(くにいち)の 国市さまの夜ごもり」という道中唄の一節を取り入れた中唄が入っていることである。
[斎藤 明]