翻訳|modulation
一つの楽曲または楽章の内部で,ある調から別の調に変化することを転調と呼び,一つの楽曲全体を別の調(高さ)に移す移調とは区別される。調性音楽の楽曲は一般に1個の基本的な調(主調)をもち,曲の開始部と終結部は主調によるのが通例である。しかし,ある程度以上の長さをもつ楽曲の場合,一貫してこの主調のみで書かれていることはむしろまれで,曲想に変化を与えるために,曲の途中で他の調への移行,すなわち転調が行われる。調の種類は主として主音(中心音)によって決定されるから,転調とは〈曲の経過中における主音の移動〉と定義することもできる。なお,同主調(たとえばハ長調とハ短調)間の変化のように主音の移動を伴わない場合も転調と呼ばれることが多いが,厳密にいえばこれは旋法(長旋法と短旋法)の変化にすぎず,むしろ転旋と呼ぶのが適切であろう。
転調によって生じる新しい調の範囲は,18世紀末までは主調と関係の深い近親調が主体であったが(近親転調),19世紀には表現要求の多様化に伴って,主調から遠く離れた調も自由に用いられるようになった(遠隔転調)。また転調の役割も,バロック・古典派音楽における,主として音楽構造上の対比効果(たとえばソナタ形式の提示部における主調の第1主題部と属調の第2主題部の対比)から,ロマン派音楽における微妙な感情表現のニュアンスや色彩効果の多様化へと変化していった。前者の場合には各調がかなりの長さにわたって保持されるので安定した対比効果を生むが,後者の場合は一定時間内に生じる調の変化(主音の移動)がめまぐるしく,不安定な情動や多様な色彩の表現に適している。転調が頻繁になるにつれて曲の調性感は希薄になり,19世紀末から徐々に〈調性〉の崩壊をもたらすことになった。転調はその定義上調性の存在を前提としているから,現代の無調音楽では転調は起こりえない。
転調には,先行調と後続調との関係(前記の近親転調と遠隔転調),新しい調の安定度(確定的転調と経過的転調),転調手法(両調に共通の和音を仲介とする全音階的転調,一方または両方の調に存在しない和音を経過する半音階的転調,異名同音を利用するエンハーモニック転調など)においてさまざまな種類があり,音楽教育においては作曲理論のうち特に和声法の重要な一環として学習される。以上のように狭義の転調は西洋の調性音楽で生じるが,西洋以外の音楽についても,旋法の変化や中心音の移動が見られるとき,これを転調という用語で説明することが少なくない。
→旋法 →調 →調性
執筆者:角倉 一朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
音楽用語。楽曲の途中で調が変わることをさす。転調には、調の変化が一時的なものと比較的長い間続くものがあり、前者の場合、調号を変えずにそのつど必要な変化記号が音符につけられるが、後者の場合、調号それ自体を変えることが多い。
転調は、いうまでもなく、調性を前提条件とし、古典的な和声規則に従った17~19世紀の音楽においてもっとも重要な意味をもつ。普通、転調は原調と移行する調の両方に属する和音で、その和声機能が両調において異なるような一つまたは複数の和音を利用して達成される。これを近代和声学では「軸和音」pivot chord(s)とよんでいる。たとえば、ト長調における主和音(G―D―E)を、ハ長調の属和音に読み替えることによって(近代和声学では「転義」という)転調はなされる。そのとき、調の中心音はト音からハ音に移されることになる。こうした調の対比は、その性格上、フーガやソナタ形式のような楽曲を構成する基礎となっている。
[黒坂俊昭]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 (株)ヤマハミュージックメディア音楽用語ダスについて 情報
…広義には,送りたい情報を通信路で送るのに適した形の信号に変換する操作をいう。狭義には,電気通信において,正弦波やパルス列などの搬送波が有するパラメーター(振幅,周波数,位相など)を,送りたい情報に従って変化させる操作をいう。単に変調という場合は,広義の意味で用いられることが多いが,振幅変調,周波数変調などという場合は,狭義の意味である。 広義の意味での変調は,要するに通信路容量との整合である。情報理論におけるシャノンの基本定理によれば,適当な符号化(変調)を行えば,情報源と通信路の整合(通信路容量を完全に利用し,しかも誤りのない情報伝送を行うこと)ができる。…
…原則的に曲の開始部分と終止部分は同一の調であるが,他は同一の調とは限らない。その際,ある調から別の調へ移ることを転調という。この調の配置は音楽形式によって異なり,単純な3部形式,A―B―Aでは,A部分が同一の調であり,B部分で転調する。…
※「転調」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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