改訂新版 世界大百科事典 「舟唄」の意味・わかりやすい解説
舟唄 (ふなうた)
barcarol(l)e
バルカロールともいう。ベネチアのゴンドラの船頭が舟をこぎながら歌った歌,あるいはそれを模した声楽曲,器楽曲を指し,〈ゴンドラの歌gondoliera〉(イタリア語)とも呼ばれる。規則正しい櫂の動きと舟のゆるやかな揺れから6/8拍子の静かなリズムが生まれ,好んで短調をとる哀愁を帯びた旋律とともに舟唄の性格を決定づけた。舟唄は視覚的な連想を伴うものとして芸術音楽に取り入れられた。イタリアや水にちなんだオペラの場面や,歌曲(C.M.vonウェーバー《オベロン》,ベルディ《オテロ》,オッフェンバック《ホフマン物語》,シューベルトの歌曲《水の上にて歌う》)ばかりでなく,《ベネチアの舟唄》と題する曲をメンデルスゾーンが《無言歌》中に3曲書いて以来,ピアノのための性格的小品の一種としてとくに好まれるようになった(ショパン,リスト,そしてフォーレの13曲がとくに有名)。仕事歌としての舟唄は日本をはじめ世界各地にみられる。《ボルガの舟唄》として有名なロシア民謡は川を遡る舟引きの歌で,正確には舟唄ではない。
執筆者:森 泰彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報