改訂新版 世界大百科事典 「平均律クラビーア曲集」の意味・わかりやすい解説
平均律クラビーア曲集 (へいきんりつクラビーアきょくしゅう)
Das Wohltemperierte Klavier
J.S.バッハの2巻から成る曲集で(第1巻BWV846~869,第2巻BWV870~893),各巻とも24の前奏曲とフーガを含む。当時まだ新しかった平均律(ただし現在のような12等分平均律ではない)の可能性に挑戦し,すべての長調と短調を用いた画期的な曲集で,各巻ともハ長調から始まってハ短調,嬰ハ長調,嬰ハ短調……というように,長調と短調を交互に置いて最後のロ短調まで半音階的に順次上行する配列がとられている。時代に先駆けたその進歩的な性格だけでなく,各曲の驚くべき多様性と芸術的な豊かさゆえに,この曲集は西洋音楽の最も偉大な古典の一つとみなされ,早くもベートーベンの時代から,あらゆる音楽教育の礎石をなしてきた。19世紀の大指揮者H.vonビューローがいみじくも呼んだように,《平均律》は音楽の旧約聖書,ベートーベンの32曲のピアノ・ソナタは新約聖書ともいうべき存在である。第1巻は1722年,第2巻は1742年ころに完成された。自筆譜は第1巻が東ベルリンのドイツ国立図書館に,第2巻(一部は妻アンナ・マクダレーナの写譜)がロンドンの大英図書館に現存している。
執筆者:角倉 一朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報