前奏曲(読み)ぜんそうきょく(英語表記)praeambulum ラテン語

精選版 日本国語大辞典 「前奏曲」の意味・読み・例文・類語

ぜんそう‐きょく【前奏曲】

〘名〙 (prelude, Vorspiel の訳語)
① 一五~一六世紀対位法様式の声楽曲に対し、鍵盤楽器用につくられた自由な様式の小品。
② 一七世紀半ばから、クープランヨハン=セバスチャン=バッハなどの組曲でその冒頭楽章として、また、フーガと組み合わせてその導入曲としてつくられた曲。その後独立した小器楽曲として作曲されるに至った。ショパンドビュッシーの前奏曲はとくに有名。〔モダン用語辞典(1930)〕
オペラの序曲。
④ 物事のはじまり。序の口発端。前ぶれ。
ルクレチウスと科学(1929)〈寺田寅彦〉一「此の冒頭は〈略〉彼の全巻を蔽ふ情調の前奏曲として見ると面白いのである」

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デジタル大辞泉 「前奏曲」の意味・読み・例文・類語

ぜんそう‐きょく【前奏曲】


㋐導入的性格をもつ器楽曲。15世紀ごろ、即興的な器楽曲として現れ、17、8世紀には舞踊組曲の冒頭楽章として、また、フーガと組み合わせた形式で盛んに作られた。19世紀以降は導入的性格をもたない独立的な作品も多い。プレリュード
オペラの全体あるいは各幕の序曲。
事件や物事の始まり。「雪解けの水が春の前奏曲を奏でる」
[補説]作品名別項。→前奏曲

ぜんそうきょく【前奏曲】[曲名]

《原題、〈フランスLes préludesリスト交響詩ハ長調。1848年作曲。1852年、1853年改訂。フランスロマン派の詩人ラマルティーヌによる「人生は死への前奏曲」であるという大意の詩に着想を得た作品。レ‐プレリュード。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「前奏曲」の意味・わかりやすい解説

前奏曲
ぜんそうきょく
praeambulum ラテン語
prelude 英語
prélude フランス語
Präludium ドイツ語
Vorspiel ドイツ語

導入的性格をもつ器楽曲。時代や地域によって様式や形式がまったく異なる。(1)古くは、リュートオルガンなどの楽器の調律を確認したり、合唱に曲の旋法や音高を教えるために即興で奏された。15世紀ごろから、華麗な走句と和音が交代する独立した作品が現れる。(2)17世紀から18世紀にかけては、舞踊組曲の冒頭楽章として重要な役割を果たす。ドイツでは対位法による緊密な書法が多いのに対して、フランスでは「拍節のない前奏曲prélude non mesuré」とよばれる即興的性格の強いタイプが好まれた。(3)同じころ、北ドイツのオルガン奏者は、フーガと組み合わせた独特の形式を発展させていた(J・S・バッハ作曲『プレリュードとフーガ』BWV531~552、『平均律クラビーア曲集』二巻)。この形は18世紀後半に一度姿を消すが、19世紀中ごろのバッハ再発見とともに復活、メンデルスゾーンブラームス、フランク、レーガーのピアノ曲やオルガン曲にその例がみられる。(4)17、18世紀のドイツ・プロテスタント(ルター派)のオルガン曲では、コラール旋律を用いた小品(コラール前奏曲)という新しい形式が生まれた。(5)19世紀に入ると、前奏の機能をもたない作品が登場する。とくにショパンの『24の前奏曲』(1836~39)以後、24の長短調を用いたピアノ曲集が書かれるようになった(ラフマニノフ、アルカン)。ドビュッシーの二巻の『前奏曲集』(1909~10、1910~12)では、各巻の12曲それぞれに『亜麻(あま)色の髪の乙女』などの標題が付されている。また、リストの交響詩『前奏曲』や、ドビュッシーの『牧神の午後への前奏曲』のように、独立した管弦楽曲もある。(6)なお、ワーグナー以後、オペラ全体もしくは各幕の序曲に、このことばが用いられている(ワーグナーの『ローエングリン』『ニュルンベルクのマイスタージンガー』『トリスタンとイゾルデ』をはじめ、ベルディ、マイヤベーアなど)。

[関根敏子]

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改訂新版 世界大百科事典 「前奏曲」の意味・わかりやすい解説

前奏曲 (ぜんそうきょく)
prelude

劇やオペラ,組曲などの冒頭におかれ,導入の役目をもつ器楽曲。英語,フランス語のプレリュード,ドイツ語のフォアシュピールVorspielの訳語。一定の形式はないが用途によって構成,規模が異なる。(1)組曲などの多楽章曲やバレエの冒頭におかれた曲。行進曲風のものは,とくにイントラーダintradaと呼ばれ,バレエなどの場合の登場曲は,とくにアントレentréeという。(2)フーガなどの前におかれた楽曲で,前奏曲とフーガとで1対を成す。J.S.バッハ《平均律クラビーア曲集》の例は有名である。(3)礼拝などの前に奏される短い楽曲で,コラール前奏曲(コラール)などはその例である。(4)序曲の一種。R.ワーグナーは《ローエングリン》(1848)以降の楽劇において,各幕への導入曲という意味でフォアシュピールの語を用いた。(5)単独の楽曲でしばしば前奏曲の名をもつ作品があり,ショパンの《24の前奏曲》やドビュッシー,スクリャービンらのピアノ曲集は有名である。
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百科事典マイペディア 「前奏曲」の意味・わかりやすい解説

前奏曲【ぜんそうきょく】

プレリュードpreludeともいい,ドイツ語ではフォアシュピールVorspiel。儀式典礼あるいはフーガ組曲などの楽曲の前に演奏される曲。また序曲の一種としてオペラの冒頭や各幕の導入部にも置かれる。19世紀以後は独立した器楽曲(ショパンスクリャービンラフマニノフドビュッシーらのピアノ曲など)のタイトルとしても用いられるようになった。リストの交響詩《前奏曲(レ・プレリュード)》のように,独立した管弦楽曲のタイトルとして用いられる場合もある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「前奏曲」の意味・わかりやすい解説

前奏曲
ぜんそうきょく
prelude

器楽曲の一種。その名の示すとおり導入的性格をもつ場合と,それにはかかわりなく,軽やかで自由なスタイルの器楽小品をさす場合とがある。前者には組曲その他多楽章作品の冒頭楽章,フーガの前におかれ1対をなす場合,教会の礼拝などにおいて単一曲ながら前奏の役目を果す場合,歌劇の幕前音楽などがある。後者の例としては,ショパンとドビュッシーの『前奏曲集』が有名。

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デジタル大辞泉プラス 「前奏曲」の解説

前奏曲

フランスの作曲家クロード・ドビュッシーのピアノ曲集。原題《Préludes》。全2巻、それぞれ12曲からなる。第1巻の第8曲『亜麻色の髪の乙女』が広く知られる。

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世界大百科事典(旧版)内の前奏曲の言及

【序曲】より

…また,19世紀フランスのオペレッタでは,オペラのアリアの旋律をつなぎ合わせたポプリ形式の序曲も生まれている。W.R.ワーグナーは《ローエングリン》(1848)以後の楽劇において,序曲に代わり,各幕の前奏という意味で〈フォアシュピールVorspiel(前奏曲)〉の語を採用している。 そのほか,劇音楽や祝祭用,または演奏会目的でこの名をもつ作品が書かれており,ベートーベンの《エグモント》序曲,《命名祝日》序曲,メンデルスゾーンの《真夏の夜の夢》序曲,ブラームスの《大学祝典序曲》,チャイコフスキーの幻想的序曲《ロメオとジュリエット》,ドボルジャークの《謝肉祭》を含む序曲三部作が有名である。…

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