建造物の基礎に据えられ、建物の重量を地面に伝える石材で、柱や土台が直接地面に触れて腐食劣化するのを防ぐ。飛鳥時代に仏教建築とともに移入された技術とされる。礎石を用いることで建物の耐用年限は飛躍的に延びるが、掘立柱建物と異なり、柱が自立しないため、礎石建ては軸組構造(じくぐみこうぞう)など建築構造や施工技術の発達が不可欠である。奈良時代には礎石は法隆寺金堂などの寺院建築や、平城京の官衙建物に用いられた。平安時代には寝殿造などの住宅建築や、地方の城柵の建物にも礎石建てが行われるようになった。鎌倉時代の鎌倉では上級武士住宅に用いられた総柱建物(そうばしらたてもの)や箱木千年(はこぎせんねん)家など室町時代の土豪住居で礎石が使われたが、民家などの庶民住居が礎石建てに転換したのは江戸時代である。礎石は自然石をそのまま用いる場合、柱底を石の曲面に合わせて削る「ひかりつけ」という技法を用いて柱と礎石のズレを防ぐ。また上面の柱当りを平らに加工した礎石や、ホゾ(枘)を造り出したり逆にホゾ(枘)穴を穿った礎石、水抜き溝を切った礎石などがある。塔の心礎(しんそ)は地下に据えられた礎石の一種である。
[中尾七重]
『近藤豊著『古建築の細部意匠』(1972・大河出版)』▽『浅川滋男・箱崎和久編『埋もれた中近世の住まい』(2001・同成社)』▽『『京都市埋蔵文化財研究所発掘調査報告 2008―22平安京右京六条一坊十四町跡』(2009・財団法人京都市埋蔵文化財研究所)』
柱の基礎に据える石材。中国では,すでに殷代より古い二里頭文化の宮殿遺跡で,版築をした基壇建物の掘立柱の基礎として,地下式礎石ともいうべきものが出現している。殷代の殷墟以降になると地上に礎石が置かれるのが一般的となる。日本では,飛鳥寺以来寺院建築に礎石が用いられるが,宮殿建築に礎石が用いられるのは藤原宮以後である。飛鳥時代の塔心礎は一般的に地下式になっていることも知られている。礎石の形式はさまざまで,自然石を用いたもの,上面を平坦に加工したもの,円形の柱座をつくったもの,方形の柱座をつくったもの,柱座の中心に突起を設けて柱の横ずれを防ぐようにしたもの,地覆(じふく)(柱と柱をつなぐ横材)座を設けたものなどがある。礎石の中心に円形突起をつくり出すのは7世紀後半以降であることが知られている。奈良県山田寺金堂の礎石は,柱座周囲に蓮華文様を彫り出している数少ない例である。石材は花コウ岩が多いが,凝灰岩や各地の特徴ある石材を使用する例もあり,奈良県川原寺では大理石が用いられている。
執筆者:田辺 征夫
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建物の柱の台石。柱の沈下や腐朽を防止する効果をもつ。仏教建築の伝来とともに使用され,宮殿や官衙(かんが)の建築にも導入された。自然石を利用したもの,上面を加工して柱位置に円形や方形の柱座,壁下に地覆座(じふくざ)を造り出したものがある。基壇(きだん)上に据えつけるのが通例だが,塔心礎のように地下に埋設したものもある。
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…このためフーチングによって柱や壁の下部の地盤との接触面に広がりをつけ,地盤の単位面積に加わる荷重を地盤の耐力に見合うようにすることが必要となる。木造の寺院の柱に礎石が用いられているが,まさにそれがフーチングに当たる。現在では一般にフーチングは鉄筋コンクリートでつくられるが,木造住宅など加わる荷重の小さい構造物の場合は無筋コンクリートも用いられる。…
…社寺建築の大部分は一階であって,二階のあるものは門,鐘楼などを除けばごく少なく,三階以上は塔以外にはない(図1)。
【各部分の構造】
社寺建築はまず基壇を築き,礎石をすえ,柱を立て,貫でこれをつなぎ,上に組物を置いて桁,梁を渡し,垂木(たるき)をかけ,屋根を葺き,いちおう雨のかからぬようにしてから,壁,窓,出入口をつくり,床,天井を張り,建具を入れ,装飾を施す。
[基壇]
神社建築では古くは基壇を設けず,礎石もない掘立柱であったが,飛鳥時代に大陸の建築様式が伝来してからは,宮殿,仏寺などは基壇を設け,神社建築もこれにならうようになった。…
※「礎石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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