フーガ(読み)ふーが(英語表記)fuga イタリア語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フーガ」の意味・わかりやすい解説

フーガ
ふーが
fuga イタリア語
fugue 英語
fugue フランス語
Fuge ドイツ語

遁走曲(とんそうきょく)」と訳されることもある。原義は「逃走」で、音楽用語としては、古くは厳格なカノンを意味したが、17世紀以来、模倣対位法によるもっとも完成された音楽形式または書法をさすようになった。

[寺本まり子]

フーガの構造

フーガは歴史的に変化し、きわめて多様であるが、すべてのフーガには次のような共通した特徴がみられる。すなわち、主題と一定数の声部(多くは三声または四声)によるその模倣を基礎にした対位法様式で書かれており、全体は主題提示部と間奏部との交代からなる。この主題提示部の数は一定ではないが、典型的にはおおむね三部分である。ここでは、主題がまず一声部に提示され、他の諸声部はそれを順に模倣していく。この場合、主題の通例五度上(四度下)の模倣、すなわち主題の「応答」と、主題の原形とが交互に現れる。そして主題の提示を終えた声部は、次の声部が応答を行うとき、引き続き「対位句」(「対位旋律」)を奏する。すべての声部が主題の提示を終えると間奏部に入るが、ここでは主題部分などに由来する短い動機が比較的自由な対位法で編まれている。なお、このほかにも、主題の音価の拡大や縮小、主題の転回、ストレッタ(応答が主題の完結以前に入ること)などの手法がしばしば用いられる。また、このような単主題のフーガに対して複主題のフーガもあり、主題の数に従って二重フーガ、三重フーガなどとよばれる。

[寺本まり子]

フーガの歴史

それはイタリアにおけるリチェルカーレカンツォーナなどの、模倣的対位法による器楽形式の成立から始まる。アンドレア・ガブリエリやフレスコバルディの育てたこれらの形式は、スウェーリンクやフローベルガーらの手を経て北方に伝わり、17世紀のドイツでフーガへと発展した。パッヘルベルやJ・C・F・フィッシャーシャイト、ブクステフーデらはフーガの形式を整え、対位法技法を洗練することに貢献した。これらの業績を受け継いだJ・S・バッハは、調的、和声的な新しい体系との結合によって、フーガの頂点を築いたが、彼のフーガは、比類なく芸術的で個性的な主題をもち、きわめて、精密な対位法を示している。

 バッハ以降、フーガは他の楽曲一部として用いられることが多く、とくにベートーベン後期ピアノ・ソナタや弦楽四重奏曲において重要な役割を果たしている。また現代では、レーガーやヒンデミットに新しいスタイルのフーガがみられる。

[寺本まり子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フーガ」の意味・わかりやすい解説

フーガ
fuga

楽曲の一形式。イタリア語で「遁走」の意。1つの主題に基づく2つあるいはそれ以上の声部から成る対位法的作品で,拡大,縮小,ストレッタ,転回,逆行などの複雑な技巧が用いられる。主題が2つ以上の場合もあり,これらはその数に従って二重フーガ,三重フーガと呼ばれる。典型的なフーガは普通3部分から成る。3声部フーガでは第1声部が単独で主題を示し,その後すぐ第2声部がそれを5度上,または4度下で応答する。第3声部で再び主題が主調で現れ,すべての声部が主題を提示し終って第1の提示部が終る。第2部は転調部で,主題が調子を変えて登場し,終結部では再び主調で主題が歌われ曲が終る。フーガの起源は 15世紀後半のポリフォニーの声楽曲に模倣風の導入がみられるが,独立した形式としては 17世紀に始り,模倣対位法の最高の形式として,J.S.バッハの『平均律クラビア曲集』や『フーガの技法』,ヘンデルの『メサイア』などで頂点に達した。その後一時衰退したが 20世紀に入って再評価され,ショスタコビッチの『24の前奏曲とフーガ』,ヒンデミットの『画家マティス』,ストラビンスキーの『詩篇交響曲』などが書かれた。

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