改訂新版 世界大百科事典 「待忍説」の意味・わかりやすい解説
待忍説 (たいにんせつ)
waiting theory
A.マーシャルによって主張された利子論。マーシャルによれば,生産要素たる資本サービスの価格としての利子率も,需要と供給によって決定される。需要を左右するのは資本の限界生産力であり,供給を左右する最大の条件は貯蓄にともなう待忍である。ある財の現在用途と将来用途との間への配分を計画する消費者は,その財の種々の現在用途の間への配分の場合と同じく,それぞれの用途からの限界効用が等しくなるよう配分を行う。しかし消費者は,通常,現在の消費を,将来の同量の消費よりも選好する。それゆえ多くの消費者は,代償なしにはあまり貯蓄をしようとはしないのであって,そのため利子は,将来消費を待つという意味での待忍waitingにともなう犠牲への代償とみなすことができる,というのである。
なおマーシャルが,N.W.シーニアー以降広く用いられていた〈制欲〉abstinence(〈節欲説〉の項参照)という語に代えて〈待忍〉という語を採用したのは,制欲という語に含まれる質素の観念が,貯蓄の大部分はぜいたくな生活を送る富者によってなされているという事実に反すると考えたためである。
執筆者:堀 元
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報