消費者が財を消費するときに得る欲望満足の度合いを効用という。しかし同じ1枚のパンの効用も、1枚目と2枚目とではその大きさは異なるであろう。通常は、1枚目のパンの効用よりも2枚目のそれのほうが小さく、さらに3枚目はもっと小さくなる傾向がある。このように、財の消費量が増加していくときの追加1単位当りの効用を限界効用といい、財の消費量の増加とともに限界効用がしだいに減少することを「限界効用逓減(ていげん)の法則」(または「ゴッセンの第一法則」)という。このような限界効用逓減のもとで、消費者が一定の所得を使って数種類の財を消費する場合、その満足を最大にする(総効用を最大にする)ような最適な各財の消費量は、1円当りで購入できる各財の数量についてその最終単位の限界効用がそれぞれ等しくなるような数量の組合せによって与えられる(たとえば、1枚1円のパンを6枚、1個1円のミカンを4個買うのが最適な消費量であるとすれば、6枚目のパンの効用と4個目のミカンの効用は等しくなる)。なぜならば、各財の最終単位の限界効用が等しくないときには、限界効用の低い財の消費量を減らし限界効用の高い他の財の消費量を増やすことによって、一定の所得のもとで購入される財全体の効用は大きくなるからである。これを「限界効用均等の法則」(または「ゴッセンの第二法則」)という。これは、各財の物的な数量単位で表した限界効用をそれぞれの価格で除した比が相互に等しくなること、すなわち
という式で表される。この式は、消費者が所得をもっとも有効に支出するとすれば、各財の限界効用の比がそれぞれの価格の比に等しくなるところで消費量が決定され、ある財の価格が上昇すれば、それに比例して限界効用が高くなるところまで、その消費量が減らされることを示している。財の価格が変化すると需要量は逆方向に変化するという需要法則の背後には、このように消費者が限界効用と価格を関連づけて消費量を決定する消費行動があるのである。このような関係から、財によって希少性が異なる場合には、消費者にとって必要度が高い(使用価値が高い)ものでも、手に入る数量が多い(希少性が低い)ものは、その限界効用は低くなり、それに対して消費者は低い価格しか支払おうとしなくなることもわかる。このように限界効用という概念に関係づけて消費者行動や商品の価値を解明しようとする理論が、限界効用理論である。
[志田 明]
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…ヨークシャーのリーズに生まれ,ロンドンのユニバーシティ・カレッジを卒業後,1874‐98年,ロンドンでユニテリアン派の有力牧師として活躍した。倫理学,社会学から経済学に関心をもつようになったが,W.S.ジェボンズの最終効用理論から出発して,それを〈限界効用marginal utility〉と呼びかえ,限界主義理論を展開したのが《経済学のアルファベット》(1888)である。のち《分配法則の統合に関する一試論》(1894)において,限界原理を生産要因の価格決定に応用し限界生産力理論(限界生産力説)を構成した。…
…そして効用価値説は,消費者というまぎれもない個人のもつ主観に価値の源泉を見いだすことを通じて,新古典派に特有の個人主義的な市場観の支柱にもなった。新古典派は,たとえば,水という有用性の高いものの価格がダイヤモンドという有用性の低いものの価格より低いのは何故かといういわゆる価値のパラドックスを,限界効用(効用)という概念にもとづくことによって解決し,きわめて体系的な価値論と価格論とを構成することに成功した。 しかし効用という概念については,その量的な測定が困難であるばかりでなく,その個人間比較も困難であるという功利主義一般につきまとう問題がある。…
…さまざまな財を消費ないし保有することから得られる効用を考え,ある財をもう1単位だけよけいに消費ないし保有することにより可能になる効用の増加を〈限界効用marginal utility〉と呼ぶ。一定の所得をさまざまな財の購入にどのように支出すればよいかを考えよう。…
…このような効用の可測性の問題は,F.Y.エッジワースの無差別曲線の理論や,パレートの選択理論(パレート最適)の展開によって克服された。 効用が価値理論の発展にとって重要なきっかけを与えたのは,限界効用という概念である。それは,〈価値のパラドックス〉と呼ばれる問題に理論的解答を与えるものであった。…
※「限界効用」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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