節欲説 (せつよくせつ)
abstinence theory
利子あるいは利潤に関して,イギリスの経済学者N.W.シーニアーがその主著《経済学概要》(1836)で主張した考え方を節欲説という。貸付金に対して利子が支払われ,投下資本に対して利潤が生まれるのはいずれも,人々が現在の消費を節欲して,貯蓄もしくは投資したことに対する報酬であるとする考え方である。
シーニアーの節欲説はのちに,A.マーシャルによって,待忍説の形に展開されていった。待忍というのはwaiting(待つこと)の訳であるが,利子あるいは利潤が,現在の消費を差し控えて,将来に引き延ばすという時間要素を重視したものとなっていったのである。
いずれにしても,節欲説の立場をとるとき,じっさい利子あるいは利潤の大きさがどのような水準に定まってくるかという問題に対して説得力ある説明を与えることはできないし,また資本がさまざまな形態をとって生産過程で果たす生産的機能について十分な考慮がなされていない。ケインズの流動性選好理論は,利子率の決定についてこれらの批判にこたえるような形で定式化され,現在では節欲説ないしは待忍説をとる経済学者はまれである。
執筆者:宇沢 弘文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
節欲説
せつよくせつ
abstinence theory
19世紀イギリスの経済学者 N.シーニアーが唱えた利子説明の理論で,制欲説ともいう。生産は人間労働および自然力を生産要因として,それに節欲が必要であるとする。その際に労働に対して労賃が支払われるのと同様に,享楽の延期,待望への代償である資本の利潤または利子も,資本を自由に処分できるにもかかわらず非生産的に使用しなかったことへの報酬であり,そうした人間の節欲がなければ生産が行われないとした。 A.マーシャルがこの説を継承して一般化した。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の節欲説の言及
【シーニアー】より
…1836年に主著《経済学概論》を著し,リカード理論の修正,展開をはかった。これは厳密な演繹的方法で書かれた古典派経済学の代表的書物の一つで,とりわけ利潤についての[節欲説]abstinence theoryは有名である。すなわち,利潤の源泉を資本家が消費を節欲して手持ち資金を資本に投ずることへの報酬とみなし,独立した生産要素としての資本と利潤の結びつきを明確にした。…
【シーニアー】より
…1836年に主著《経済学概論》を著し,リカード理論の修正,展開をはかった。これは厳密な演繹的方法で書かれた古典派経済学の代表的書物の一つで,とりわけ利潤についての[節欲説]abstinence theoryは有名である。すなわち,利潤の源泉を資本家が消費を節欲して手持ち資金を資本に投ずることへの報酬とみなし,独立した生産要素としての資本と利潤の結びつきを明確にした。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」