忘れえぬ人々(読み)わすれえぬひとびと

改訂新版 世界大百科事典 「忘れえぬ人々」の意味・わかりやすい解説

忘れえぬ人々 (わすれえぬひとびと)

国木田独歩の短編小説。1898年(明治31)4月,《国民之友》に発表。溝口(みぞのくち)(現,川崎市)の旅館亀屋で,無名の文士大津が,たまたま泊まりあわせた画家の卵秋山に物語る形式となっている。大津には,親兄弟や先生と違って忘れても義理を欠くわけでもないのに,妙に忘れられない何人かの人々がいる。瀬戸内海通いの汽船甲板から見た寂しい小島の漁夫,阿蘇山のふもとで見た馬子,四国の三津が浜で見た琵琶僧などである。立身出世の妄執から解放されたとき,すべての者に対する同情の念が生まれ,人懐かしくなるというのである。山林海浜の小民に無窮天地に孤立する人間存在を見るという,独歩文学の原点を示す作品である。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

関連語 山田

今日のキーワード

南海トラフ臨時情報

東海沖から九州沖の海底に延びる溝状の地形(トラフ)沿いで、巨大地震発生の可能性が相対的に高まった場合に気象庁が発表する。2019年に運用が始まった。想定震源域でマグニチュード(M)6・8以上の地震が...

南海トラフ臨時情報の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android