元来は蒸気力を使って推進する船のこと。19世紀の初め,機械力による動力船として最初に実用化されたものが蒸気機関を用いたものだったところから,これを備えた船を蒸気船,または汽船と呼んだ。しかし,その後動力源としてディーゼルエンジン,電動機やガスタービン,さらには原子力が利用されるようになったことに伴って,現在ではこれらのディーゼル船,電気推進船,ガスタービン船,原子力船も汽船のうちに含め,動力船と汽船とが同義に使われるようになっている。
蒸気船の発明者はR.フルトンとされる場合が多いが,実際にはフランスのD.パパンの実験船(1707),アメリカのJ.フィッチの船(1787)などの先駆がある。蒸気船による営業運航に成功した最初がフルトンのクラモント号であり,その後,蒸気船がだんだんと帆船に代わるようになったことから,フルトンが蒸気船の父とされているのである。蒸気船による最初の大西洋横断は,1819年,90馬力の蒸気機関を積んだサバンナ号によるもので,27日と11時間かかっているが,全航程中,蒸気力で走ったのは1/8で,後は帆走であったとされている。蒸気力だけで大西洋を横断したのは38年のイギリスの蒸気船シリウス号Sirius(703総トン,320馬力)とグレート・ウェスタン号(1321総トン,750馬力)で,同じ日であり,前者のニューヨーク到着が4時間早かった。しかし,所要日数は前者が19日半かかったのに対し後者は15日半で横断している。江戸時代末期の53年,日本に渡来したアメリカのペリーの黒船も帆走兼用の蒸気船であった。
汽船は初め外車で推進していたが,やがてスクリューが使われるようになった。大型船で本格的なスクリューを使ったのはグレート・ブリテン号が最初である。エンジンのほうの変遷をみると,初めワットの蒸気機関が使われ,だんだん大型化して19世紀末には4段膨張4連成エンジンも造られたが,やがて高速化と大型化の要請から蒸気タービンに代わった。蒸気タービンを用いたタービン船の登場は19世紀の終りで,50トンにも満たないタービニア号に始まるが,わずか10年後の1907年には長さ240m,総トン数3万2000トン,6万8000馬力の豪華客船モレタニア号が出現している。一方,ディーゼルエンジンが船のエンジンとして用いられるようになったのは1905年ごろからで,日本でも昭和初期の太平洋客船浅間丸,竜田丸,鎌倉丸のほか,優秀貨物船に広く用いられ,ディーゼル船の比率は14年の0.5%から75年には75%までに増加した。
→舶用機関
執筆者:赤木 新介
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推進機関として蒸気機関を備えた船。19世紀の初め、船の推進機関として蒸気機関が最初に実用化され、それ以来、初期の推進機関はすべて蒸気機関であったことから、これを装備した船を蒸気船といい、略して汽船といった。その後、内燃機関など他種の機関が船に使用されるようになって、汽船という名称は、機械力で推進する船すべてをさすようになった。船舶法施行細則には「機械力をもって運航する装置を有する船舶は、蒸気を用いると否とにかかわらず、これを汽船とみなす」と定められている。
[森田知治]
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…清になっても漕運は内陸水運を利用したが,海運の復活を求める声も強く,道光年間(1821‐50)に正式に復活する。海運には新しい汽船が用いられたこともあったが,まもなく漕運そのものが廃止され,国内の貨物輸送を税糧輸送が大部分を占めるという形は,生産物の相互流通という近代的形態にとってかわられる。 一方,華北華中の沿岸で漕運が盛んであったころ,東南海岸の海路も唐・宋を通じて繁栄していた。…
…産業革命による経済構造の変化は19世紀中葉に至って爆発的な商工業の膨張と原料や製品の大量輸送をもたらした。汽船はすでに19世紀初頭から川や運河などでは使われ始めていたが,まだ広い海を渡るのは無理であった。そこでこの世界規模の大量輸送にこたえるべく帆船の大型化と技術革新が始まり,クリッパーに代表されるような史上例を見ない高性能の大型商業帆船が続々と建造された。…
※「汽船」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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