急性腎障害・急性腎臓病

内科学 第10版 「急性腎障害・急性腎臓病」の解説

急性腎障害・急性腎臓病(急性腎不全)(腎不全(腎障害))

(1)急性腎傷害(acute kidney injury:AKI)
 AKIは,かつての急性腎不全(acute renal failure:ARF)とよばれた病態を含む大きな概念であり,急激な腎機能低下によって,代謝産物の蓄積,電解質調節異常,細胞外液調節異常,貧血,などを生ずる.腎機能障害の分類は,近年世界的に大きく変化しており,このAKIに関してもARFでは定義できない軽度の腎機能障害を含む概念である.各種の腎臓病ガイドラインを作成している国際組織KDIGOからAKIガイドラインが2012年に発表された(KDIGO,2012).さらにAKIを含む急性腎臓病(acute kidney disease:AKD)の概念も提唱されている.そのAKIとAKD,慢性腎臓病CKD)との関係は図11-10-1に示したように,互いにオーバーラップするものである.AKI(7日以内)を含むAKDは時間的要素を含むものであり(3カ月以内),CKDは3カ月以上経過する病態である(表11-10-1)AKIとAKDとCKDの鑑別は図11-10-2に従って行う.
定義
 AKIは頻度が高く(common),有害であり(harm­ful),回復の可能性がある(treatable)病態である.軽度の腎機能低下も予後に影響することから早期の診断と治療が重要である.AKIは血清クレアチニン濃度(Scr)と尿量から定義されている(表11-10-2).
概念
 AKIは腎臓の構造と機能を障害する病態であり,急激な腎機能の低下をきたし,また予後に悪影響を及ぼす.広範な臨床上の症候群であり,一次性腎臓病(急性糸球体腎炎,急性間質性腎炎,血管炎など),非特異的異常(虚血や腎毒性物質など),腎外の原因(腎前性尿毒症,急性腎後性閉塞性腎障害など)を含んでいる.かつてのARFといわれたような腎機能不全に陥るような状態に至らない軽度の腎機能障害を含む.なぜならば,AKIのような軽度の腎機能障害においても死亡などの予後に影響することが近年エビデンスとして報告されてきたからである.つまり,AKIは急性肺障害(ALI)や急性冠症候群(ACS)の概念と類似する.さらに原因の如何にかかわらずその臨床経過は類似しており,腎臓への傷害と腎機能低下をもたらす.
 AKIの概念を図11-10-3に示す.ピンク色で示したのはAKIのステージであり,黄色で示した円はAKIの危険性のある前段階を示し,オレンジ色の円はその中間を示している.左から右へ向かって病態が悪化し,逆に治療によって右から左へ回復する.紫の円はAKIの予後を意味する.
歴史
 ARFは血清Crから診断できるが,ARFの定義は一定せず曖昧であった.つまり,ARFの概念は定義が多彩であり臨床上ならびに研究上,非常に使いにくい.また,軽度の急性腎機能障害はなかなか診断されにくかった.そこでAcute Dialysis Quality Initiative (ADQI)がARFのガイドラインを作成しARFの定義を行い,さらにRIFLEクライテリアを発表した.しかし,ARFは軽度の急性腎機能悪化を見逃すことになるため,AKIの概念が新たに導入され,今までのARFに加えて,軽度の急性腎機能障害も含めたAKIの定義を決定した.さらに,Acute Kidney Injury Networkが中心となり,AKIの定義が改変されてきている.このAKIの定義はRIFLEとAKINによって定義されている.さらに,KDIGOはこの定義を改訂し現在に至っている.
分類
 AKIは表11-10-3のようにステージ1〜3に分類される.これは血清Crと尿量からの重症度分類である.ステージ分類によって,死亡の危険性や腎代替療法(RRT)の時期などが明白となる.さらに,CKDへの悪化の危険性や心血管疾患発症の危険性も推測できる.
原因・病因
 AKIの原因は,ARFの原因と同様に腎前性(腎灌流低下),腎性,腎後性(尿路閉塞)に分けることができるが,腎性を2つに分け,腎臓に病変が特異的に起こる疾患と非特異的腎障害にKDIGOでは分類している(表11-10-4).特に,最近ではすべて原因に共通する腎障害は虚血によるとのエビデンスが出てきている.表11-10-5に示したような危険因子や病態があるとAKIが発症しやすくなる.
疫学
 AKIの頻度はすべての原因を含めると,100~600人/100万人/年である.入院中では,腎前性AKIと急性尿細管壊死(acute tubular necrosis:ATN)が2つの大きな原因であり,AKIの70~75%を占めている.スペインからの報告ではAKIの原因は,ATN45%,腎前性21%,acute on chronic 13%,尿路閉塞10%,糸球体腎炎と血管炎4%,急性間質性腎炎2%,コレステロール塞栓症1%となっている.したがって,ATNと腎前性AKIに注意する必要がある.
病理
 AKIの中でも頻度の高いATN(acute tubular injury:ATI)について述べる.肉眼的には虚血により蒼白で腫大し,20~30%の重量増加が認められる.割面では直細動脈(vasa recta)の血液うっ滞を認め,髄質は暗赤色,皮質は蒼白となり,皮髄境界部が際立つ.顕微鏡的には,尿細管上皮の腫大と刷子縁の消失,石灰化,尿細管上皮傷害(ブレブ(bleb)化),尿細管拡張,壊死,細胞脱落などが認められる.また回復期には細胞の再生像が認められる.
病態生理
 AKIでのGFR低下は腎組織変化が軽度でも起こる場合が多く,AKIの腎機能低下にはいくつかの病態生理が加わっている可能性がある.①集合尿細管での内腔閉塞が円柱で起こるとその集合尿細管に流れ込む多くのネフロンからの尿が流出しない.②近位尿細管とHenleループでのNa再吸収障害で,マクラデンサへのNa負荷が増加し,輸入細動脈の攣縮が起こる(尿細管・糸球体フィードバック,TGフィードバック).③尿細管を通して逆流が起こる.④アポトーシスが起こる.⑤尿細管周囲血管に白血球が溜り閉塞を起こす.⑥そのほかに炎症・免疫反応・虚血・サイトカインなど多くの因子がかかわっている.しかし,最終的な細胞傷害の原因は虚血や炎症によるものと考えられている.最近,正常血圧でもAKIを起こすNT-AKI(normotensive AKI)が注目されており,腎内の動脈硬化のため正常血圧でも自己調節機能が働かずに腎血流が低下しAKIとなる.
臨床症状
 AKIの症状は,軽度の場合はCr上昇,eGFR低下,尿量減少などの検査値異常だけであるが,中等度から高度になると,全身臓器に影響が表れる.中枢神経症状では意識障害,痙攣,反射低下など,消化器症状では食欲低下,悪心・嘔吐,下痢,出血など,呼吸器症状では呼吸困難,呼吸速迫,血痰など,そのほかに貧血,アシドーシス,心不全,不整脈,浮腫,電解質異常(高カリウム血症,低カルシウム血症,高リン血症),酸塩基障害(アシドーシス)などがある.
診断
 AKIの診断は,AKIの定義(表11-10-1)にあるように,Scrの上昇と尿量減少で診断される.さらに治療に結びつけるには,表11-10-3にあるようにグレード分類を行い対処する.また,AKIの原因も含めた鑑別診断では,画像診断(X線,超音波,CT,MRI),尿検査(沈査,尿蛋白量,潜血など),一般血液検査,血液ガス,血清電解質,免疫検査(補体価,C3,C4,抗核抗体,ANCAなど)も行う必要がある.AKIとAKD,AKIとCKDの診断アルゴリズムを図11-10-2に示した.まず,eGFR低下あるいはScr上昇が3カ月以上か3カ月以内に起こったかでCKDとの鑑別を行い,次にAKIクライテリアに合う場合(Yes-I)はAKIとなり,AKDクライテリアに合う場合(Yes-D)はAKDと診断する.
鑑別診断
 AKIの診断はScrと尿量によって容易に診断できる.したがって,鑑別診断として他の病態を考える必要はほとんどない.ただし,神経・筋疾患でCr上昇が認められることがあるので注意が必要である.重要な治療に結びつく鑑別診断はAKIの病因についてである.KDOQIの提唱する図11-10-4に示したように,AKIと診断されたら,ステージ分類を行い,さらに腎灌流が低下しているか(腎前性)を考える.次に尿路閉塞を鑑別し,さらに特異的腎障害を考え,最後に非特異性腎障害を考える.図11-10-4にしたがってAKIの鑑別を行っていく.AKIと診断されなくても危険因子を持つ患者には注意するのは当然である.AKIの診断がついたら,病歴を詳しく聴く(特に,食事・水分の摂取量,尿量と回数と色調,薬剤服用歴,発熱,下痢,嘔吐,糖尿病や高血圧の有無-表11-10-5の危険因子を参考)とともに,身体所見をとる(体液量減少の兆候がないか-表11-10-6を参考,バイタルサイン,貧血,浮腫,皮膚所見,関節腫脹,起立性低血圧,頸静脈拍動など).臨床検査では,X線,心電図,腎エコー,尿検査,血液生化学検査を施行する.特に尿の円柱,蛋白尿,血尿,ミオグロビン尿,尿中Na,Crなどをチェックする.表11-10-7に示したように,ATNと腎前性AKIでは,FENaやBUN/Cr比が鑑別の助けになる.次にステージを決定し,腎臓への灌流が低下している場合(腎前性AKI)の場合には,体液量減少か,心機能低下か,腎血管収縮かを鑑別する.腎血流が保たれていると判断したら,腎エコーなどの画像診断によって尿路閉塞を鑑別する.尿路閉塞が認められたらステントなどで解除する.次に腎の特異的病変を鑑別するが,生化学検査,補体,ASK,ASLO,抗体などの免疫検査,腎生検などで急性糸球体腎炎,急性間質性腎炎,SLE,血管炎,骨髄腫などを鑑別する.それぞれの疾患が診断されたならば,その疾患に対する治療もAKI治療と並行して行う.腎に特異的病変が否定されたら,最後に非特異的腎障害の鑑別を行い治療する.
経過・予後
 AKIは基本的に原因が早期に除去されれば腎機能が回復する可能性のある症候群である.もちろんAKIの原因によってもその経過や予後は異なるが,頻度の高いATN(ATI)では,虚血時間が短いほど予後が良好である.回復が遅い可能性が高い患者は,高齢者(67歳以上),CKDの存在,糖尿病の存在などがあげられる.入院中に透析が必要になったATNでは死亡率が40~60%と高率である.軽度のATNでは死亡率は15~30%である.退院後の死亡率もATNを起こしていると高い.予後に影響する因子としては,年齢,敗血症,ARDS,肝不全,血小板減少,Cr上昇(>2 mg/dL)などが報告されている.
治療・予防
 AKIは基本的に腎機能回復の可能性がある病態であることから,AKIの対処法は重要である.AKIの治療はもちろん原因疾患の治療が中心となるが,原因にかかわらずAKI一般に共通する治療法も同時に行う必要がある.つまり,AKIの原因は可能な限り診断すべきである.AKIの危険因子となる,障害因子と感受性因子を改善することが必要である(表11-10-5).障害因子の中にはもちろん腎毒性薬剤や造影剤も含まれる.感受性因子の中には特に脱水,高齢,糖尿病などがあげられ,改善できるものはAKI治療と同時に対処する.図11-10-5にしたがって治療法を述べる.
1)可能性のある薬剤の中止:
その第一は腎機能障害を起こす可能性のある薬剤の中止である.絶対に必要な薬剤以外は中止することが望まれる.KDIGOのAKIガイドラインにおいても,図11-10-5に示したようにすべてのAKIステージに共通するのは薬剤を含めた腎毒性物質の中止である.
2)体液量の是正:
腎毒性物質(薬剤)の中止と同時に体液量の是正を行う.腎前性AKIの頻度は高く,早期に体液補充を行うだけで腎機能の改善が期待できる.体液量減少による腎前性の因子がある場合には生理食塩液投与が有効である.有効性は確実ではないが,ドパミン,Ca拮抗薬,ANP,エンドセリン,IGF-Iなども試みられている.利尿薬の投与はAKIの予防には使用しない(レベル2C).かえって体液量の減少を招く可能性がある.体液貯留がある場合には,ループ利尿薬が有効な場合もあるが,大量投与では予後を悪化させるとの報告もあるので適正使用が重要である.マンニトールに関しては前向き研究のエビデンスが少ないが,後ろ向き研究ではクラッシュ症候群などでの有効性も報告されている.
3)血行動態のモニター:
AKIでは体液量の変化が治療に結びつくため,細心の血行動態管理が必要である.特に血圧管理(血圧低下による腎前性AKI)と腎血流量管理(自動能の破綻)が重要である.血圧と心拍出量を適正化するために,輸液と強心薬を適正に用いる.輸液剤としてAKIあるいはAKIの可能性のある患者には,電解質輸液剤(生理食塩液)を用いる(アルブミン製剤などの膠質輸液剤ははじめからは用いない(レベル2B,SAFE研究).AKIを伴う血管性ショックの場合にはバソプレシンを投与する(レベル1C),心不全を伴う場合にはトルバプタン(水利尿薬:ADH受容体拮抗薬)も有効な場合がある.
4)Scrと尿量のモニター:
AKIステージ1の段階からScrと尿量は連日モニターする必要がある.治療効果判定や病態の進行を把握できる.
5)高血糖の注意:
重症のAKI患者ではインスリンを使用して血糖を110~145 mg/dLにコントロールする(レベル2C).血糖コントロールが良好になると予後改善効果が期待できる.
6)造影剤の禁止:
AKIが診断されたら造影剤は特別の必要性がない限り使用しない.ほかの検査で代替する.腎機能が低下している患者にガドリニウム造影MRIを施行すると,腎性全身性線維症(NSF)を起こすことがあるので注意する.
7)非侵入的検査:
画像検査などはエコーなどの非侵入的検査を優先する.
8)侵入的検査:
非侵入的検査ではわからない,診療に必要な腎生検などの侵入的検査は非侵入的検査のあとに行う.
9)投与薬剤量の適正化:
AKIステージ2になったら,腎排泄性薬剤は体内に貯留するので投与薬剤量を適正化する.
10)腎代替療法(renal replacement therapy:RRT,血液透析など)の考慮:
AKIステージ2になったら,血液透析などのRRTを考える.特に,心不全や肺水腫,高カリウム血症を起こしている場合は即急に血液透析やHDFなどを行う.腎代替療法導入の基準は表11-10-8に示した.生命を脅かすような高カリウム血症や心不全,肺水腫などが存在するときはRRTを考慮する.
11)ICUへの移送:
AKIステージ2になったら全身管理ができるICUに移送するのが望ましい.
12)食事療法:
食事療法は,蛋白制限,K制限,水分制限を病態に応じて適宜行う.エネルギー投与量は20~30 kcal/kg/日とする(レベル2C).栄養投与ルートは経口摂取ができればなるべく経口的に投与する(レベル2C). 通常はAKIの病態と危険因子が除去されれば,腎機能が数日から数週間で改善されるが,治療が遅かったり適切でないと慢性に移行する.
(2)急性尿細管壊死(急性腎尿細管壊死(acute kidney tubular necrosis:ATN),急性腎尿細管傷害(acute tubular injury:ATI))
 AKIのおもな原因はATN(最近はATIを用いるようになってきた.ATIはATNを含む概念である)と腎前性AKIである.腎前性AKIによって腎灌流量が長期に低下するとATIに移行する(ischemic acute tubular injury).腎前性AKIは体液量減少,血圧低下,浮腫,腎虚血などが原因となるが,ATIではそのほかに,腎毒性物質によるものが含まれる(toxic acute tubular injury).
(3)クラッシュ症候群(crush syndrome), crush-related AKI
 クラッシュ症候群(挫滅症候群)は筋肉挫滅による横紋筋融解が血中のミオグロビン濃度を増加させ,急性尿細管壊死(ATN)を起こし,AKIとなる病態である.横紋筋融解は外傷でも非外傷性筋障害で起こるが,特に災害時に建物などの崩壊によって横紋筋融解を起こすことが問題になる.もちろん,クラッシュ症候群はミオグロビンによるATIのほかに,低容量性ショック,敗血症,高カリウム血症,心不全,不整脈などの病態を含む症候群である.クラッシュ症候群は地震などの災害時に外傷性横紋筋融解を起こした患者の30~50%に,また,すべての外傷患者の2~5%に発症する.症状は筋肉の腫脹によるコンパートメント症候群である.激痛と筋力低下,感覚異常,麻痺が起こり,遠位部の脈を触知できないか,微弱となる.AKIが生ずるのは受傷後1~3週後であり,尿量の減少が起こる.回復期は多尿になる.循環血漿量低下,赤色・褐色尿,Scr上昇,CK上昇,高カリウム血症,尿量減少が症状として現れる.治療と予防は,循環血漿量低下を防ぐことが重要である.つまり,細胞外液輸液を積極的に行う必要がある.それも受傷直後から行う方が予後がよい.
(4) 造影剤腎障害(contrast-induced AKI:CI-AKI)
 造影剤によるAKIの頻度は高く,危険因子を持つ患者への造影剤の投与には注意が必要である.腎機能がもともと正常な患者ではCI-AKIの頻度は1~2%と低値である.しかし,腎機能が低下している患者やCKDに糖尿病や心不全を合併している患者,高齢者,腎障害の可能性がある薬剤投与中の患者ではCI-AKIの頻度は25%と上昇する.CI-AKIを発症した患者の予後は悪く,死亡や入院期間の増加が報告されている.特に冠動脈インターベンションでCI-AKIを起こすと心血管死の頻度が増加する.造影剤腎症ではN-アセチル-l-システイン(ムコフィリン)が有効との報告がある.[飯野靖彦]
■文献
KDIGO Clinical Practice Guideline for AKI: Kidney Int, Suppl. 2:1-115, 2012.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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