フィードバック(読み)ふぃーどばっく(英語表記)feedback

翻訳|feedback

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィードバック」の意味・わかりやすい解説

フィードバック
ふぃーどばっく
feedback

制御系などで、系の出力の一部を入力に戻して出力を制御すること。帰還ともいう。フィードバックの方法には単一ループによるもののほかに、多くのループを用いる多重型や、電気特性が一様に分布したループによる分布型がある。

 出力の一部を入力に戻すとき、その方向(極性)は入力と同じか逆方向に加えるが、それを正(ポジティブ)または負(ネガティブ)のフィードバックとよぶ。系に正のフィードバックを加えると、外部からみた利得は増大する。負のフィードバックを加えると、外部からみた利得は減少するが、系の特性は改善される。正のフィードバックは発振回路や跳躍回路のほか分布帰還型レーザーに、負のフィードバックは広帯域増幅回路自動制御システムに用いられる。

[岩田倫典]

社会科学・社会工学への応用

フィードバックとは、ある原因から生み出された結果がその原因に反作用をもたらすことによって、原因自体が自動的に調整され、より望ましい結果が導かれる過程をいう。そして、この過程をシステム化した状態、つまり入力した指令(原因)がある回路を通して伝達されて一定の出力(結果)をもたらすと、その効果がただちに別な回路を通して制御装置に伝えられて指令そのものを調整するという過程を反復的、連続的に保障している機構をフィードバック・システムという。フィードバックはもともと電気工学上の原理について用いられてきた用語だが、制御とともにサイバネティックスの基本概念の一つともされ、現在では広く社会科学、社会工学においても社会過程の分析や設計にこの概念が適用されている。社会や組織のなかの中枢機関で、ある意思決定が行われ、それが執行に移される過程で、そのなかの関係諸部門や諸階層からその決定の内容や実施方法に関する意見や提案が中枢機関に送られ、決定の実効性をより高めるという、意思決定過程におけるボトム・アップbottom-upとか参加的意思決定の考え方は、社会過程におけるフィードバックの概念と深く関連している。この過程の自動化を図ろうとする志向は、一方では社会内部、組織内部での民主化、他方では社会管理、組織管理の効率化への関心と結び付いている。

[石川晃弘]

『N・ウィーナー著、池原止戈夫他訳『サイバネティックス』第二版(1962・岩波書店)』『J・アネット著、増山英太郎他訳『フィードバックと人間行動』復刊版(『現代の心理学2』1985・岩崎学術出版社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フィードバック」の意味・わかりやすい解説

フィードバック
feedback

系の出力側の一部を入力側に戻すこと。帰還ともいう。 1934年,H.S.ブラックにより増幅器についてその原理が述べられた。のちにその負帰還の安定性の理論が,ハイファイアンプ,自動制御系,人間工学などに広く応用されるようになった。特にフィードバック制御は自動制御の基本である。図はフィードバック増幅器を示し,ここで AV'0/V0 をトランジスタなどの能動素子を含む増幅回路の増幅度,βを抵抗,容量,インダクタンスなどの受動素子だけから成るフィードバック回路の帰還率とし,全体の増幅度 V'0/VSA' とすると,A'=A/(1-Aβ) となる。 |1-Aβ|<1 のときを正帰還といい,A'>A となり,増幅度は帰還回路によって増大する。 |1-Aβ|=0 のとき A' は無限大となり,これは回路が発振状態にあることに等しい。 |1-Aβ|>1 のときを負帰還といい,A'<A となり,増幅度は減少する。このとき |Aβ|≫1 (この条件は普通は満足される) であれば A'≒-1/β となる。βは安定な回路素子のみから構成されるので,負帰還増幅器の増幅度 A' は安定である。また信号の波形は忠実に増幅される。機械システムではワットの蒸気機関にある調速機が回転速度をフィードバックして蒸気量を調整する仕組みとして利用され,自動制御技術の始りとされている。フィードバックを人工物,生体,社会に共通するメカニズムとしてとらえる総合的な学問分野としてサイバネティクスがある。

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