挫滅症候群(読み)ザメツショウコウグン(その他表記)(Crush Syndrome)

家庭医学館 「挫滅症候群」の解説

ざめつしょうこうぐんあつざしょうこうぐんくらっしゅしんどろーむ【挫滅症候群(圧挫症候群/クラッシュ・シンドローム) (Crush Syndrome)】

◎事故救出後に重篤(じゅうとく)な症状が
 四肢(しし)(手足)、臀部(でんぶ)などの筋肉の豊富な部位が強い圧迫を受け、挫滅されたりすると、その部分に血液が流れにくくなります。そのため、その部分の筋肉がむくみ、筋肉内の圧が上昇して、さらに血液が流れにくくなってしまうという悪循環が生じます。
 筋肉は、挫滅された部分以外もこの血流不足と圧迫のためにさらに壊死(えし)におちいりますが、血液循環を維持するのに欠かせない重要な成分が、この壊死をおこした筋肉に取り込まれる結果、全身の血液循環が悪化してショック状態となり、腎不全(じんふぜん)へと進行します。
 いっぽう、圧迫が取り除かれて筋肉に血液が流れ出すと(再灌流(さいかんりゅう))、壊死した筋肉からカリウムミオグロビントロンボプラスチン、乳酸などが流出し、血液中の量が増えて、高カリウム血症(けっしょう)、代謝性(たいしゃせい)アシドーシス、播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)などがおこります。とくに危険なのは高カリウム血症で、急速な心停止をおこすことがあります(再灌流症候群)。
 筋肉の圧迫にともなっておこるこのような全身状態の障害を挫滅症候群(圧挫症候群)といい、家屋倒壊、列車事故、炭鉱事故などで広い範囲の筋肉が、2時間以上も圧迫され続けたときにおこります。
 1995年に発生した阪神・淡路大震災のおりに注目されたもので、救出されてから治療を始めるまでの時間が、患者さんの明暗を左右するといわれています。
 救出の際に、圧迫されていた部位の痛みなどを訴えることはありませんが、救出後しばらくすると、圧迫されていた部位のまひ、感覚障害(とくに痛覚触覚消失)、むくみがおこってきます。尿が茶色に変わり、尿の量も減少するという特徴があります。
◎救出しだい治療を始める
 治療法としては、救出したら、ただちに輸液を開始します。可能であれば、救出前から輸液を開始します。
 圧迫されて2時間以上たっている場合は、心停止を予防するために、救出したら、圧迫されていた部分の心臓に近い部位をしばり、壊死した筋肉に血液が再灌流しないようにします。
 このような手当を行なったうえで、治療の受けられる医療機関へ至急搬送します。
●医療機関での治療
 急性腎不全を予防するために、大量の輸液を行ないます。
 この際、腎臓のはたらきを悪化させるミオグロビンの毒性を低下させる薬や、腎臓に流れる血液量を増やす薬も使用します。全身状態が悪化しているときは、血液透析(けつえきとうせき)が必要になります。
 高カリウム血症になっていれば、これを解消する薬も使用します。
 筋肉内の圧が高くなっていれば、筋膜(きんまく)を切開して圧を下げる(減圧切開法(げんあつせっかいほう))とともに、手術後の感染を予防するために、汚れている筋肉や壊死をおこした筋肉の徹底した切除を行ないます。
 壊死した筋肉の徹底した切除を行なっても敗血症を防止できないとき、治療にもかかわらず高カリウム血症や代謝性アシドーシスが改善しないときは、救命のために、圧迫された手足の切断が必要になることもあります。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「挫滅症候群」の意味・わかりやすい解説

挫滅症候群
ざめつしょうこうぐん
crush syndrome

クラッシュ症候群ともいう。事故や地震などにより長時間にわたり何かにはさまれたり下敷きとなって圧迫され続けた場合,筋組織が挫滅し,救出後,多臓器不全や血管内凝固症候群 (DIC) に陥り,死にいたることもある症候群のこと。 1995年1月の阪神・淡路大震災のあと多数の患者が発生し,一躍注目された。破壊された筋組織から浸出した蛋白質のミオグロビンやカリウムなどが腎組織や心組織にダメージを与え,急性腎不全,急性心不全を起すためと考えられている。腎不全にいたらぬよう,水分の補給と輸液を行うことが最も大切だといわれる。

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世界大百科事典(旧版)内の挫滅症候群の言及

【ショック】より

…外傷性ショック死のうち,受傷直後にショックによって死亡するものはほとんど疼痛などによる神経性ショック死であるが,交通事故やけんかや幼児虐待の場合に,全身に負傷し,数時間から1日でショックを起こして死亡するものがある。このうち,広範に筋肉が挫滅されて生じるものは挫滅症候群といわれる。麻酔ショック死は麻酔剤によって循環や呼吸の中枢あるいは末梢神経が麻痺して,ショック死するものである。…

※「挫滅症候群」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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