翻訳|apoptosis
生物を構成する細胞が自分の役目を終えたり、不要になると、みずから死ぬ(自殺)現象。細胞死ともいう。アポトーシスそのものは古くから知られていた。胎児にみられる手の水かきが体の成長とともに消えていく過程、両生類の尾の退化などがこれに該当する。アポトーシスは、あらかじめ細胞内の遺伝子にプログラムされているといわれ、癌(がん)、アルツハイマー病やエイズ、一部の神経筋肉疾患などの発症に関与すると報告されている。ある種の癌抑制遺伝子を欠いた細胞は、アポトーシスをおこしにくいことから、一部の癌抑制遺伝子はアポトーシス制御機能をもつと判明し、アポトーシス抑制遺伝子の利用に関する研究も発表されている。線虫を用いた研究でアポトーシスのプログラムが遺伝子に盛り込まれていることを発見したS・ブレンナー、R・ホルビッツ、J・サルストンは2002年、ノーベル医学生理学賞を受賞している。
[飯野和美]
プログラムされた細胞死で,けがや循環障害による壊死(ネクローシス)と区別される.オタマジャクシがカエルになるときにみられる尻尾の消失などが典型例であるが,多細胞生物では不都合な細胞を取り除くために日常的に起こっている.細胞内外からの刺激によって細胞死プログラムが作動すると,カスパーゼ(caspase)とよばれる一群のプロテアーゼが活性化され,それに引き続いてデオキシリボヌクレアーゼ(DNase)なども活性化されてDNAの断片化や細胞の小片化が起こり,まわりの細胞に影響を与えることなく死滅する.カスパーゼという名前は,活性中心にシステイン(Cys)を有し,アスパラギン酸(Asp)を認識して切断することに由来する.細胞外からの死滅シグナルはFasリガンドから細胞表面のFasに伝えられる.細胞内からの死滅シグナルは,ミトコンドリアからのシトクロムcの遊離が引き金になる.カスパーゼの活性制御因子としてBcl-2のようなインヒビターが知られている.放射線などによってDNAが損傷を受けた場合には,まずp53(転写調節因子)が活性化され,細胞の分裂を止めたうえでアポトーシスが起こる.p53に異常があると不都合な細胞の分裂増殖が止まらず,がん化する.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)
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