慢性腎臓病(CKD)(読み)まんせいじんぞうびょう(CKD)

六訂版 家庭医学大全科 「慢性腎臓病(CKD)」の解説

慢性腎臓病(CKD)
まんせいじんぞうびょう(CKD)
Chronic kindney disease (CKD)
(子どもの病気)

どんな病気か

 CKDは、蛋白尿(たんぱくにょう)血尿(けつにょう)などの腎臓病の症状や腎機能が低下した状態が、3カ月以上持続するものと定義されています。腎機能に応じて、腎機能の低下がみられないステージⅠから、透析(とうせき)治療が必要な腎不全(じんふぜん)状態であるステージⅤに分類されます(表4)。

原因は何か

 小児のCKDは成人に比べて頻度が少なく、原因も大きく異なります。成人では糖尿病(とうにょうびょう)を原因とする糖尿病性腎症が最も多く、年々患者数も増えていますが、小児では慢性糸球体腎炎ネフローゼ症候群、尿管閉塞(へいそく)による水腎症(すいじんしょう)腎低形成(じんていけいせい)異形成(いけいせい)などの先天性疾患が原因となります。

症状の現れ方

 小児の慢性糸球体腎炎の多くは3歳児検診や学校検尿などで、何の症状もなく発見されます。この段階ではほとんどの場合はCKDの病期ステージはⅠで、腎機能の低下はみられません。かぜにかかった際に急性糸球体腎炎と同様の褐色(かっしょく)調の血尿、浮腫(ふしゅ)(むくみ)、高血圧などの症状がみられる場合があり、このような肉眼的血尿で発見される場合もあります。

 進行にしたがって蛋白尿が増加し、やがて腎機能が低下します。腎機能障害が進行すると、高血圧、浮腫、貧血(ひんけつ)さらに成長障害などの腎不全による諸症状がみられるようになります。

 また、紫斑病(しはんびょう)膠原病(こうげんびょう)などの全身疾患に合併する慢性糸球体腎炎もあります(紫斑病性腎炎ループス腎炎など)。

 一方、先天性の異常は、出生前後に超音波検査で発見される場合や、乳幼児では体重が増加しない、多尿、尿路感染症を繰り返すことなどの症状から発見される場合があります。また、まれですが、学校検尿で尿所見の異常や腎機能障害が発見される場合もあります。

検査と診断

 急性糸球体腎炎と同様に、尿検査、血液検査を行います。小児の慢性糸球体腎炎の多くは、むくみなどの自覚症状がなく、尿検査で異常が見つかります。とくに血尿・蛋白尿ともにみられる場合は糸球体腎炎である可能性が高く、診断を確定するために腎生検(じんせいけん)(腎臓の一部を針で採取する検査)が必要になる場合があります。

 軽度の血尿のみがみられる場合は、定期的な尿検査を続けながら様子をみます。蛋白尿のみがみられる場合は、生理的な体位性蛋白尿(たいいせいたんぱくにょう)(コラム)である場合が多く、これは進行することがないため病気とは考えません。

 多量の蛋白尿が続く場合や徐々に増加する場合には、やはり何らかの腎疾患である場合が多く、腎生検を含めた詳しい検査が必要になります。

 また、慢性糸球体腎炎血管炎(けっかんえん)膠原病などの全身疾患に合併することもあり、症状からこれらの病気が考えられる場合は血液検査で鑑別(かんべつ)診断を行います。

 先天性の異常(水腎症や腎低形成、異形成など)は、尿検査で発見される場合が少なく、体重の増加不良や繰り返す尿路感染症の原因を調べる際に、発見されることがあります。超音波検査、CT検査や腎臓のシンチグラフィといった画像検査で診断を行います。

治療の方法

 小児では学校検尿で早期に病気が発見される場合が多く、CKDのステージが軽い段階で治療が開始されます。CKDのステージが軽い段階では運動や食事の制限はありませんが、血尿や蛋白尿が強い時期や特別な治療薬を内服している場合には、激しい運動をひかえる必要があります。また、肥満や高血圧慢性糸球体腎炎の進行を早めます。むしろ適度な運動や塩分をひかえた食生活が大切です。

 CKDのステージが進行すると、高血圧やむくみ、電解質(でんかいしつ)異常、貧血などによる症状が出現する場合があり、これらの症状、検査所見に合わせて降圧薬などの内服や運動・食事制限が必要になります。

 腎生検で慢性糸球体腎炎と診断された場合には、重症度や症状の強さに応じて治療を行います。炎症所見が強い場合には、ステロイド薬や免疫抑制薬に加えて抗凝固薬抗血小板薬など種々の薬を併用して治療を行います。症状や組織所見が軽い場合には、高血圧薬と抗血小板薬のみの内服で治療を行う場合もあります。

 慢性糸球体腎炎は、無治療で放置した場合には、約20年かけて30%くらいの方が末期の腎不全に進行するといわれていますが、現在は治療薬や治療法も進歩しているので、しっかりと治療を行えば病気を治すことができます。薬の内服を忘れないことや、3度の食事などの規則正しい生活を心がけることが大切です。

 尿管狭窄(きょうさく)による水腎症膀胱尿管逆流症(ぼうこうにょうかんぎゃくりゅうしょう)が原因のCKDは、腎機能障害の進行を予防するために手術が必要になる場合があります。

病気に気づいたらどうする

 何の症状もなく学校検尿で初めて異常を指摘された場合は、かかりつけ医や指定の病院を受診してください。

 肉眼的血尿やむくみなどの症状がある場合には、小児の腎臓病専門医がいる病院を受診します。

池住 洋平


慢性腎臓病(CKD)
まんせいじんぞうびょう(CKD)
Chronic kidney desease (CKD)
(腎臓と尿路の病気)

どんな病気か

 2002年に米国腎臓財団から発表された慢性腎臓病(Chronic kidney disease:CKD)の概念と病期分類によると、CKDとは、糸球体濾過量(しきゅうたいろかりょう)GFR)で表される腎機能の低下が3カ月以上あるか、もしくは腎臓の障害を示唆する所見が慢性的(3カ月以上)に持続するものすべてを含んでいます(表6)。

 腎臓障害を示す所見として、①蛋白尿(たんぱくにょう)などの尿の異常、②片腎や多発性嚢胞腎(たはつせいのうほうじん)腎結石(じんけっせき)などの画像所見異常、③腎機能障害などを示す血液検査異常、④異常病理所見があげられています。CKDの重要な点は、末期腎不全透析(とうせき)療法へと進行することと、CKDの病期が進むほど、CVD(心血管疾患)の発症リスクが上昇することです。

原因は何か

 CKDは、ひとつの腎疾患を意味するのではありません。腎機能低下が慢性に進行する、すべての腎疾患を包む疾患概念です。ですから、それぞれの疾患により、原因もさまざまです。

症状の現れ方

 病期1~2までは、無症状であることがほとんどですが、病期3以降になるとさまざまな症状が出現します。病期3では夜間尿、軽度の高窒素血症(こうちっそけっしょう)高血圧(軽症)が、病期4では多尿、貧血、中等度の高窒素血症、代謝性(たいしゃせい)アシドーシス、高リン・低カルシウム血症、高血圧(中等度)が認められます。さらに病期5では、著明な高血圧、浮腫(ふしゅ)(むくみ)、肺水腫(はいすいしゅ)、貧血、消化器症状(悪心(おしん)嘔吐(おうと)など)、循環器症状(うっ血性心不全、不整脈、胸痛など)、皮膚症状(かゆみ、色素沈着など)、神経症状などの尿毒症(にょうどくしょう)症状が出現し、放置すると死に至ります。

検査と診断

 CKDは、蛋白尿と推算(すいさん)糸球体濾過量eGFR)が60ml/分/1.73m2未満で診断されます。

 病期分類(病期1~5)は、GFRの15および30の倍数で区切られ、腎移植患者である場合はT(transplantationのT)を、病期5で透析を受けている場合はD(dialysisのD)をつけます(表7)。

治療の方法

 CKDには、多くの原因疾患が含まれるため、原疾患に対する治療法を選択することになります(詳細は、各論を参照)。

 しかし、いずれにおいても一般療法(生活習慣病・メタボリックシンドロームの是正、感染予防、運動など)、食事療法(減塩・低蛋白食、エネルギーコントロール食など)、薬物療法レニン・アンジオテンシン系阻害薬、カルシウム拮抗薬副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制薬、血糖降下薬など)、手術のなかから選択されます。

病気に気づいたらどうする

 特定健診などで、尿検査所見や画像診断所見、腎機能障害を示す血液検査値に異常を指摘された場合には、腎臓専門医をすぐに受診すべきです。

 これらの所見異常がみられなくてもeGFRが60ml/分/1.73m2未満の時は、CVD(心血管疾患)の危険性もあることから、心・腎疾患の経過観察を受けることが大切になります。

富野 康日己


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「慢性腎臓病(CKD)」の解説

慢性腎臓病(腎・尿路系の疾患)

定義・概念
 慢性透析患者の生命予後が悪いのはよく知られている.しかし,最近の疫学研究により,軽微のアルブミン尿や中程度の腎機能障害でも生命予後や心血管疾患の発症に重大な影響を与えることが明らかとなった.また,アルブミン尿と腎機能障害はお互いに独立した危険因子で,その程度が高度になるほど心血管死のリスクが高くなる(図11-2-1).したがって,腎損傷を早期にとらえ,原因疾患の治療や危険因子をコントロールすることにより,末期腎不全と心血管疾患の発症を抑制する目的で,慢性腎臓病の概念が提唱された.診断基準は,①腎傷害を示唆する所見(検尿異常,画像異常,血液異常,病理所見など)が3カ月以上存在すること,②GFR60 mL/分/1.73 m2未満が3カ月以上持続することである.この片方または両方を満たす場合にCKDと診断される.CKDはアルブミン尿と腎機能低下の程度により,リスク分類されている.CKDは広い概念であり,微量アルブミン尿期から末期腎不全まで包含している.原疾患および病期により,取るべき対策が異なる.
病態生理
 高血圧,肥満,糖尿病などでは10 mg/日程度の極軽微なアルブミン尿があると腎機能が正常でも脳・心血管疾患が起こりやすい.何故だろうか? これを説明する機序としてstrain vessel説が提唱されている.図11-2-2に腎臓と脳の血管系を示す.腎臓では弓状動脈から小葉間動脈,糸球体輸入細動脈へと分枝していく.皮質の深部にある傍髄質糸球体輸入細動脈は太くて高い内圧を有する弓状動脈に近いため,拍動性の高い圧を受け,かつ,糸球体までの圧較差を維持するために強く収縮している緊張度の高い細動脈(直径20~30 μm),すなわちstrain vesselである.一方,小葉間動脈に沿った血圧の低下のため,表在糸球体輸入細動脈にかかる圧力はずっと低い.このような構造なために,高血圧や動脈硬化で最初に傷害されるのは傍髄質糸球体輸入細動脈であり,その結果,その下流にある糸球体が損傷されて,アルブミンがBowman腔に漏出する.しかし,その他のほとんどの糸球体は傷害されていないので,最終的に尿中に出現するアルブミン量はごく微量である.すなわち,微量アルブミン尿はstrain vesselの早期の傷害を反映する.脳の穿通枝も腎臓の血管系と同様の血行動態にあり,尿に微量のアルブミンが出現することは穿通枝の病変の存在を示唆する.自然界では循環障害が生命を脅かす最も大きな脅威であり,低血圧時に生命維持に重要な部位へ有効に血液を運ぶためには,太い血管から直接分枝する細動脈が必要であった.しかし,食塩の過剰摂取と過栄養により高血圧や糖尿病が蔓延している現代では,strain vesselは逆に生命を脅かす構造となっている.したがって,生活習慣病ではアルブミン尿は大きな臨床的意義をもつ. 図11-2-3にCKDの病態の進展過程を表した.高血圧や糖尿病などは古典的危険因子とよばれており,動脈硬化を促進する.初期の血管傷害は特にstrain vesselに起きやすいが,徐々に全身の血管に波及してくる.腎血管系も徐々に傷害される範囲が拡大し,顕性のアルブミン尿(尿蛋白)が出現し,腎機能も低下する.アルブミン尿は腎尿細管間質傷害を引き起こし,腎機能低下を促進する.腎機能が低下すると非古典的危険因子が動脈硬化を促進し,動脈硬化と腎機能障害の間に悪循環が形成される.したがって,アルブミン尿や腎機能障害の程度が高度になるほど,末期腎不全および心血管疾患の発症頻度が大きくなる.
 一方,糸球体腎炎などでは,顕性尿蛋白があっても心血管疾患の発症は多くない.その理由は,糸球体腎炎は主に免疫機序により糸球体そのものが傷害を受け,多量の尿蛋白が出現するが,strain vesselは傷害されていないからである.腎炎患者が心血管疾患を起こしやすくなるのは,一般に腎機能が低下して,動脈硬化が促進されてからである.
CKDの重症度分類
 従来,CKDの分類はGFRのみで行われていたが,最近の研究により,GFRのみならずアルブミン尿の量および原疾患が生命予後や末期腎不全に重要であることが明らかになり,新しい分類が示された(表11-2-1).すなわちCKDの重症度は原因(Cause:C),腎機能(GFR:G),蛋白尿(アルブミン尿:A)によるCGA分類で評価する.GFRが低下するほど,アルブミン尿が多いほど心・腎リスクが増加することを視覚的に示している.
疫学
 CKDは新たな国民病といわれ,日本の成人人口の約13%,1330万人がCKD患者である(表11-2-2).CKDの新規発症,特にアルブミン尿の出現には糖尿病,高血圧,肥満,喫煙などの生活習慣病が大きく関わっている.一方,IgA腎症などの慢性腎炎もいまだCKDの重要な原因となっている.原疾患が何であれ,腎機能の低下と末期腎不全の発症には,尿蛋白の程度と血圧が重要な因子となる.いずれにしても,早期に発見し,原疾患やリスク因子に対する早期介入が重要である.
診断・治療・予後
 CKDの診断は尿検査と血液検査(血清クレアチニン値)でつけることができる.しかし,それだけでは不十分で,その原因疾患を検索し,適切な治療をすることが必要である. CKD診療においては病診連携が重要である.患者年齢にもよるが,一般的には,0.5 g/gCr以上または2+以上の蛋白尿,②eGFR50 mL/分/1.73 m2未満,③蛋白尿と血尿がともに陽性(1+以上),のいずれかが認められたら,腎臓専門医に紹介することが望ましいとされている.
 CKDは治療をしないと原因の如何にかかわらず進行性の経過をたどる.原疾患の治療とともに,食事療法や生活習慣の修正とともに高血圧などの付随する危険因子の管理が重要である(各項参照).特に,減塩(6 g/日),適正体重の維持,血圧,脂質,血糖,貧血,Ca-Pの管理が重要である.血圧管理においては,レニン-アンジオテンシン系阻害薬を用いて130/80 mmHg未満を目指して降圧する.CKDではしばしば治療抵抗性高血圧がみられるが,その中には二次性高血圧(原発性アルドステロン症や腎血管性高血圧など)が含まれていることがあるので注意する.また,尿アルブミン排泄量が減少の度合いと腎予後および生命予後の改善が相関する.したがって,尿アルブミンや尿蛋白を尿クレアチンとの比を用いて定量的に評価し,診療の指針とするべきである.尿蛋白減少に有効な治療法として,十分な降圧,レニン-アンジオテンシン系阻害薬の十分量の投与,蛋白摂取制限などがある. 進行したCKDの予後は悪い.死因は心血管疾患,悪性腫瘍,感染症などである.最近,治療により,CKD患者の腎機能が時間とともに緩やかに改善する可能性があることがわかった.血圧を低くすること,尿蛋白を減少させることが有効である.[伊藤貞嘉]
■文献
日本腎臓学会編:CKD診療ガイド2012,東京医学社,東京,2012.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「慢性腎臓病(CKD)」の意味・わかりやすい解説

慢性腎臓病
まんせいじんぞうびょう
chronic kidney disease

2002年にアメリカの腎臓財団(NKF:National Kidney Foundation)が腎臓病予後改善対策(K/DOQI:Kidney Disease Outcomes Quality Initiative)ガイドラインとして提唱した、新しい腎臓病の疾患概念。略称CKD。糸球体濾過(ろか)量(GFR:glomerular filtration rate)によって重症度を分類するもので、これまでの方法とはまったく異なる診断基準が示されている。すなわち腎臓病の病因だけをとらえるのでなく、腎機能がどの状態(ステージ)にあるかによって診断する考え方である。こうした新しい概念が生まれた背景には、世界的に患者数が増え続けていることがある。さらに、自覚症状に乏しく気づいたときには慢性化していることの多い腎不全に対する一般の予防的意識を高めるねらいと、腎機能の低下の程度が軽度なうちに医療的な対処を始めようとする考えがある。腎臓病学の国際的組織である国際腎臓病予後改善委員会(KDIGO:Kidney Disease Improving Global Outcomes)もこの考え方を支持し、最終的に世界保健機関(WHO)の国際疾病分類ICD-10(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, 10th edition)にも疾患名として加えられた。

 透析患者数が年々増加の一途をたどり、腎臓病が新たな国民病となりつつある日本でも、2006年(平成18)に日本慢性腎臓病対策協議会が設立され、今日ではこの考え方が主流となっている。また日本腎臓学会でも2007年の「CKD診療ガイドライン」で腎機能のステージ別診療方針を提示するとともに、日常の生活習慣、食事療法、血管管理法などについても注意を促している。2012年には、指針となる重症度の分類に変更を加えた新たなガイドラインが示されて評価項目の糸球体濾過量のステージ分類も細分化され、原因(疾患)とタンパク尿(アルブミン尿)の評価項目が判定に加わった。糖尿病や高血圧と同様に、軽度な腎臓病やタンパク尿も冠動脈疾患の危険因子となりうることから、CKD患者の血圧の管理指標や降圧薬の第一選択薬についても変更が加えられている。

[編集部]

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