日本大百科全書(ニッポニカ) 「悲しき熱帯」の意味・わかりやすい解説
悲しき熱帯
かなしきねったい
Tristes tropiques
文化人類学者レビ・ストロースの手になるノンフィクション文学の傑作として、フランス語から14か国語に訳され、高い声価を得ている。1955年刊。9部からなり、学問的自己形成を語った部分、1930年代のブラジルの熱帯や奥地の実態についての記録、とりわけカデュベオ、ボロロ、ナンビクワラ、トゥピ・カワイブの民族誌的記述、アジア旅行の印象などが、密度の高い文体でつづられている。記録として優れているだけでなく、それらの全体が、著者の壮大なペシミズムに彩られた独自の文明論をなしている。本書のブラジルでの体験の把握と記述のうちには、著者がその後展開した構造主義の方法の原型が認められる。
[川田順造]
『川田順造訳『悲しき熱帯』上下(1977・中央公論社)』