悲しき熱帯(読み)かなしきねったい(その他表記)Tristes tropiques

日本大百科全書(ニッポニカ) 「悲しき熱帯」の意味・わかりやすい解説

悲しき熱帯
かなしきねったい
Tristes tropiques

文化人類学者レビ・ストロースの手になるノンフィクション文学の傑作として、フランス語から14か国語に訳され、高い声価を得ている。1955年刊。9部からなり、学問的自己形成を語った部分、1930年代のブラジル熱帯奥地の実態についての記録、とりわけカデュベオ、ボロロナンビクワラ、トゥピ・カワイブの民族誌的記述、アジア旅行の印象などが、密度の高い文体でつづられている。記録として優れているだけでなく、それらの全体が、著者の壮大なペシミズムに彩られた独自の文明論をなしている。本書のブラジルでの体験の把握と記述のうちには、著者がその後展開した構造主義の方法の原型が認められる。

川田順造

『川田順造訳『悲しき熱帯』上下(1977・中央公論社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の悲しき熱帯の言及

【レビ・ストロース】より

… 主著には,女性を交換する互酬のコードを婚姻体系にみる《親族の基本構造Les structures élémentaires de la parenté》(1949),〈未開分類〉の論理構造を明らかにしてヨーロッパ人類学の認識論を相対化した《野生の思考La pensée sauvage》《今日のトーテミスム》(ともに1962),また〈料理の三角形〉や〈儀礼と神話〉論を含む大作《神話学Mythologiques》4巻(1964‐71)などがある。ほかにも方法論集ともいうべき《構造人類学》2巻(1958,73)や,広い読者層を獲得した初期の内省的民族誌《悲しき熱帯Tristes tropiques》(1955)がある。とくに《悲しき熱帯》は,失われた人間と自然との結びつきをめぐるルソーを思わせる文明論的省察として大きな反響を呼び,また《野生の思考》は,文明化した〈栽培思考〉に対して,未開人にみられる〈野生の思考〉がそれ自体組織的な感性的思考による〈具体の科学〉であることを明らかにし,西欧中心の近代的思考体系への根底的反省を促して〈構造主義〉思想の展開を触発した。…

※「悲しき熱帯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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