日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
意識の直接与件に関する試論
いしきのちょくせつよけんにかんするしろん
Essai sur les données immédiates de la conscience
ベルクソンの著書。ベルクソン的思考の原点を示すとともに、年を追って哲学史的意義の明らかになった書。1889年刊。別称『時間と自由』は英訳名。言語ひいては言語による思考とは「生活の必要」に応じて分類された個々の外的対象に対応する人為的な記号とその操作であり、こうした「実用の道具」をもって「思弁」の領域にまで進むのは誤りである。哲学とは「記号」のかなた、意識に直接現前するものの観照にあり、そのとき内観所与として、刻一刻に絶えざる「質的変化」を続ける心的現象、過去―現在―未来の「時間的総合(サンテーズ)」としての内奥自我を得る。自由とはこのような内的生動への没入による全人格的感覚であり、「不可能」(決定論)でも「可能」(カント)でもなく、一つの「事実」である。
[中田光雄]