思弁
しべん
近代インド・ヨーロッパ語で、思弁に対応する原語、たとえば英語のspeculationが株の「投機」の意味をももつことに暗示されているように、あれこれと思い迷うこと、「思惑」というニュアンスをもつ。そこで哲学的には「思考」「思索」と一面では共通の意味があるが、次のような違いを示す。
(1)古代ギリシア哲学以来の区別の伝統を受け、技術(テクネー)technē、実践(プラクシス)prāxisに対して、実践、実用を離れた純粋に知的認識としての観相(テオリア)theōriāの含みが強い。
(2)経験的、実証的、科学的な思考に対し、理性的、空想的、形而上(けいじじょう)学的思索の意味をもつ。
そこで、プラトンや近代理性論の系譜、観念論的立場からは、哲学的活動の本質として重視されるが、経験論、唯物論、実践重視の哲学的立場からは消極視される。とくに現代では、理論物理学の「思考実験」と同様の意義が認められる場合を除けば、概して空疎で非行動的な思索という悪い意味をもつ。
[杖下隆英]
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デジタル大辞泉
「思弁」の意味・読み・例文・類語
し‐べん【思弁/思×辨】
[名](スル)《〈ギリシャ〉theōriaの訳語》経験に頼らず、純粋な論理的思考だけで、物事を認識しようとすること。「―的な小説」
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しべん【思弁 speculation】
〈見る,観察する,看視する〉を意味するラテン語specio,ギリシア語skopeōに基づくラテン語speculatioに由来し,観察,観想,観照,静観,省察の意味で使われる用語。明治10年代から思弁,40年代には想考とも訳された。ボエティウスはこれを〈観想,理論theōria〉ならびに〈観照contemplatio〉と同義に用いた。エリウゲナには〈知性的な思弁〉〈理論的な思弁〉の用例があり,知性による原理の理論的な観想,省察の意味である。
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普及版 字通
「思弁」の読み・字形・画数・意味
【思弁】しべん
考えて知りわける。〔中庸、二十〕
く之れを學び、審(つまび)らかに之れを問ひ、愼みて之れを思ひ、
らかに之れを辨じ、篤(あつ)く之れを行ふ。字通「思」の項目を見る。
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世界大百科事典内の思弁の言及
【投機】より
…狭義には,ある時点で購入した財(金融資産を含む)を,異時点間の価格変化から(その財の利用からではなく)利益を得ようとする目的で,他の時点で売却する行為のことをいう。たとえば,日本人が,為替レートの先行きを予想して,ドルを安いときに買って,ドル高になったときにそれを売却して円に換える場合,狭義の投機を行っていることになる。このような投機は純粋な投機と呼ばれることもある。しかし,一般に,価格が時とともに変化すると予想されているときには,人々は,多かれ少なかれ,その価格変化から利益を得ようとするものである。…
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