改訂新版 世界大百科事典 「抛入花伝書」の意味・わかりやすい解説
抛入花伝書 (なげいればなでんしょ)
いけばなのなかの抛入の啓蒙書。1684年(貞享1)刊。3巻本で,各巻ともはじめに目次がついている。著者は十一屋太右衛門(じゆういちやたえもん)という説もあるが確証なはく,ただ立花師ということはたしかである。上巻は抛入花の起源と特色について述べる。抛入花は茶の湯の花から始まったという説と立花(りつか)を簡略にしたものという二つの説があるが,立花師である著者は後者の説をとっている。中巻は花入と抛入花との関係,下巻は花の水揚げ法を中心に,花名をあげて説明してあり,さながら花材辞典のような記述がある。池坊系の伝書には,本書の内容によく似た生花(いけはな)の書がいくつかあり,おそらく本書の著者は,生花は抛入花であるという立場から池坊の生花の伝書を下じきとして,これを問答形式になおして本書を編んだと思われる。本書は〈抛入花〉を書名にした最初のもので,立花の沈滞にかわって,新しい抛入花の普及をめざした啓蒙的な伝書である。
執筆者:水江 漣子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報