改訂新版 世界大百科事典 「文公家礼」の意味・わかりやすい解説
文公家礼 (ぶんこうかれい)
Wén gōng jiā lǐ
中国,南宋時代に成立した礼儀作法の書。《朱子家礼》ともいう。通礼,冠礼,昏(婚)礼,喪礼,祭礼の5章より成る。文公とは朱子学の大成者朱熹(しゆき)(子)のこと。《儀礼(ぎらい)経伝通解》が社会的,国家的規模における礼をあつかい,かつまた漢代以来の礼学の集大成を企図したものであるのに対し,《家礼》は文字どおり官僚・庶民の家庭的規模における礼の実践的細則を定める。いわば冠婚葬祭のシナリオのごときもの。司馬光の《書儀》などを継承しつつ,時代に適合したより簡便な礼をめざしている。清の王白田などによって偽作説も唱えられたが,朱熹の礼学が反映されているのは疑いを入れない。この書の出現後,冠婚葬祭の標準的な手引書として仰がれ,中国のみならず,朝鮮,日本,ベトナムにまで流布した。日本では一部の熱心な儒者の家で遵用されたにとどまったが,朝鮮では制度として受容され,朱子学の隆盛とあいまって,数百年にわたって人々の暮しに大きな影響を与えた。
執筆者:三浦 国雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報