日本大百科全書(ニッポニカ) 「文化刺しゅう」の意味・わかりやすい解説
文化刺しゅう
ぶんかししゅう
刺しゅうの一種。緞通(だんつう)針の応用で原理は同じ。筒形で先端が針になっている文化刺しゅう針で、糸はリリアンをほぐしたものを用いる。用具が単純なうえ、技法が簡易なため一般人に喜ばれる。
[市川久美子]
歴史
20世紀初頭にヨーロッパで創始された。わが国には1928年(昭和3)、チェコスロバキアで行われた「第6回国際美術教育会議」に日本代表として出席した岡登貞治(おかのぼりさだはる)が、そのときに催されていた「美術工芸の用具材料展」から材料などを持ち帰ったことに端を発する。ただ、その当時わが国では、美術教育の実情および一般家庭生活の嗜好(しこう)などから、ほとんど問題視されなかった。その後、藤崎豊治らが改良を加え、30~35年にかけて文化刺しゅうとしての地位を確立させた。針も現在の形に完成させ、50~60年に至って、刺しゅうしやすい生地(きじ)の生産や糸の多色染色も行われた。さらにそれから5年後、裏刺しの技法を応用した起毛法も考案され、より精緻(せいち)な刺しゅうも可能になった。ヨーロッパでおこった刺しゅうが、日本で開花したのである。
[市川久美子]