改訂新版 世界大百科事典 「時間選好」の意味・わかりやすい解説
時間選好 (じかんせんこう)
time preference
将来に消費することよりも現在に消費することを好む程度を,時間選好率rate of time preferenceあるいは単に時間選好と呼ぶ。通常の経済理論は,現在から将来にわたる消費活動によって得られる個人の効用(満足感のこと)を基礎にして組み立てられている。その効用の構造を特定化する要因の一つが時間選好である。具体的には,現在の消費量を1単位減少させたときに以前と同じ効用を維持するうえで必要とされる将来の消費量の増加から,さらに1を差し引いた値として定義される。たとえば,現在の消費量5単位そして将来の消費量20単位という消費計画のもとで彼の時間選好を1.5とする。現在の消費量5単位から1単位減少させたときに以前と同じ効用を維持するためには,将来の消費量を2.5単位増加させて22.5単位にしなければならない。一般に,現在の消費量が少なければ少ないほど,性急な人や将来に不安を抱いている人であればあるほど,さらに比較される将来が遠ければ遠いほど,現在の消費量1単位の減少が高く評価され,彼の時間選好は高くなる。このように時間選好は,経済理論の基礎にある効用の構造を特定化するゆえに,その上に成り立つ多くのことがらに影響を与える。とくに,現在から将来にわたる最適な消費配分の決定を問題にする異時点間の消費理論に対しては,その重要な構成要素をなしている。
執筆者:宮越 龍義
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報