日本大百科全書(ニッポニカ) 「月称」の意味・わかりやすい解説
月称
げっしょう
生没年不詳。7世紀なかばの大乗仏教中観(ちゅうがん)派に属する南インド出身の学者。サンスクリット名はチャンドラキールティCandrakīrti。「すべてのものは実体性をもたない」という空(くう)の思想を、ただ論理的に記述するだけでなく、仏教者としての実践の立場から明らかにしようとした。空について自己の主張を積極的に示すのはあまり有効ではないと考え、空の思想と対立する考えがあればそれには帰謬論証(きびゅうろんしょう)で臨めばよいとする態度をとった。そのため、積極的な論証に重点を置く清弁(しょうべん)(6世紀)を激しく批判した。後代、この批判が中観派分裂の契機になったとみなされるようになる。彼の学説は11世紀以降チベットに紹介され、チベット仏教のなかで中心的な位置を占めた。著書としては、菩薩(ぼさつ)の修行に沿って空の思想を述べた『中道への入門』、龍樹(りゅうじゅ)著『中の頌(じゅ)(中論)』に対する注釈書でサンスクリット語原典が現存する『明らかなことば』が重要。
[江島惠教 2016年11月18日]